もとは漁師の防寒着として、
後にイギリス海軍の防寒着として採用されたのがダッフルコートです。
通常は、裏なしで、メルトンと呼ばれる厚地の生地が用いられ、
胸と背中のヨーク切り替え、大きなフードとパッチポケット、
そして、麻ひもとトグルと呼ばれる角や木片などを用いた留め具が特徴です。
トグルとは、もともと釣り用の浮き具。
そのため、木片や動物の角など、
水に浮く素材が使用されています。
軍服なので、もともとは男性用の防寒着。
しかし、これほどまでに広く老若男女に好まれるコートも、
ほかにはないのではないかと思います。
ダッフルコートの特徴は、
その完成されたデザインでしょう。
メルトン以外の、たとえばニットや綿入りのポリエステルで作られることはあったとしても、
その他の部分においては、もはや誰も改造することができないほど、
デザインが完成されています。
丈が長くなったり、
身頃がタイトになったりすることはあっても、
そのほかの部分は変わることなく、
ずっと同じ形で今も続いています。
変わらぬデザイン、
子どもから大人まで、
女でも男でも着用できる懐の深さ、
これこそまさにベーシックです。
さて、そんなダッフルコートですが、
大人の女性が着るとなったら、
そこには何か工夫が欲しいところです。
特に、カジュアル、ユニセックス、しかも子どもまでも着るようなものは、
何も考えずに着ると、子どもっぽかったり、
男性と変わらないスタイルになります。
子どものようでもなく、
男性にはできないやり方で、
ダッフルコートを着ることができれば、
それは単なるカジュアルな防寒用コートではなく、
おしゃれのために選んだ、特別なコートになります。
そのためにはどうしたらいいのか。
ダッフルコートがもともと持っているイメージから遠いものをあわせることです。
つまり、
軍人という男性から遠いもの、
たとえばジーンズとチノパンツ、アランニットなど、
いわゆる「海の男」を彷彿とさせるようなものだけで全体をコーディネイトすることを避けて、
そのかわり、
か弱く、美しく、非戦闘的で、ゴージャスで、リラックスできるものを組み合わせていきます。
女性にとってのそれは、
たとえば、シルクのブラウス、ミニスカート、華奢なヒールのパンプス、
花柄のドレスなど、
パンツと組み合わせたいのであれば、
男性が身につけないような色のダッフルコートを選ぶか、
または、靴や小物をうんと女っぽく、
決して男が選ばないような、
たとえば赤い靴、きらきら輝く素材が使われたバッグやストールなどを組み合わせます。
おしゃれとは、イメージの換骨奪胎です。
特に軍服オリジナルデザインのものは、
どこまでオリジナルのイメージを払しょくできるかが勝負です。
ダッフルコートに、同じマリンスタイルのボーダーを持ってくることも、
もちろんできます。
紺色のダッフルコートに、紺色のボーダー柄のニットは、
確かによく似合います。
けれども、それだけで終わりにしないで、
どこか必ず、もとのイメージから遠く離れたい。
絶対に「戦えないスタイル」にしたいのです。
なぜならそれを考えるのが、大人のおしゃれだからです。
そこが、学生とは違うところです。
遠く離れるために持ってくるものは、
レースのスカートかもしれないし、
シフォンのブラウスかもしれません。
または、真っ白なダッフルコートを選んで、ほとんど白でコーディネイトしてみることかもしれません。
考えること、
工夫をすること、
そのまま着ないこと、
これらが大人のおしゃれです。
与えられたそのままではなく、
教えられたそのままでもなく、
自分で見つけて、
自分で構築する。
失敗を繰り返しながら、
誰もが知っている正解などない、
「自分らしさ」の表現の仕方を探っていく。
それをできるのが、大人という立場です。
それなしに、与えられたひとそろえをただ着続けるならば、
それはただ子どものままだということ。
その「らしさ」は、決してその人の「らしさ」ではありません。
ダッフルコートの持つイメージと戦って、
どれだけ「戦い」から遠ざかるか。
戦争を放棄した私たちは、
それを考えなければならないのです。
それはこれからもずっとです。
それは、永遠に、そうなのです。
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