この冬、フランス人、アメリカ人、イタリア人が書いたおしゃれのための本で、まだ日本で出版されていないものについて3冊ほど読みました。
そのどれもに、
「トレンドなど無視するように!」というようなことが書いてありました。
この指針の前提は、「トレンドは無視することができる」、
つまり、トレンドの影響を受けないでも服を買うことができる、ということです。
果たしてそんなことは可能でしょうか?
例えば日本でトラッドと呼ばれるテイストの服は、トレンドの影響を受けにくいものの一つです。
「紺ブレ」と呼ばれる紺色のブレザーなど、そのいい例でしょう。
(余談ですが、ブレザーの語源のブレイズは、炎のように燃える赤色という意味なので、
紺色のブレザーというのは非常に矛盾した表現です)
そのほか、軍服をオリジナルとするトレンチコート、Pコートなども、
このトラッドを扱うブランドではいつも売られています。
では、これらのものは全くトレンドの影響を受けないのでしょうか?
例えばトラッドで有名なラルフ・ローレンがあります。
「ラルフの紺ブレ」と呼ばれるぐらい、
このブランドのブレザーは定番として有名です。
毎年、同じスタイルのものが販売されています。
ではこの「ラルフの紺ブレ」はトレンドに全く影響されていないでしょうか?
そんなことはありません。ちゃんと影響されています。
去年の紺ブレと今年の紺ブレでは、
肩幅、身幅、肩パッドの厚さ、ウエストの絞り、着丈など、
すべて違います。
それは1ミリ単位で調整されています。
10年前に1度作った紺ブレを、全く手直しもせず毎年同じものを作り続けているなどということはありません。
必ずやどこか変えていきます。
なぜか。
それはトレンドが変化したからです。
タイトフィットのものが格好良く見えるとき、
ワイドフィットのものが格好良く見えるとき、
トレンドは大体この2つのシルエットを繰り返していきます。
テイラードカラ―、金色のボタンなど、
デザインのディテールは変えなくても、
シルエットはそのトレンドに沿ったものに必ず変えていきます。
流行とはシルエットです。
それを無視することは、ファッションを扱うブランドにはできません。
もし無視し続けたなら、
もうとっくにファッションブランドとして撤退していたことでしょう。
もしトレンドに全く影響されない定番なるものがあるとしたら、
1度そのパターンを作って、いつも同じものを作り続けていればいいだけです。
もし人が絶対にトレンドに影響されたくないのなら、
買うときに同じものを何着も買って、
だめになったら、またそれを着ればいいのです。
しかし10年前に買ったトレンチコートと今のトレンチコートでは、
シルエットが違います。
同じバーバリーの定番のトレンチコートでさえ、
今素敵に見えるシルエットは10年前のものとは違います。
毎年何かを買う限り、
トレンドから逃れることはできません。
トレンドに影響されない買い物をすることは、
今の私たちにはできません。
トレンドに影響されなかったのはすべての服を自分で作っていたターシャ・テューダーか、
自分たちのスタイルを守り続けるシェーカー教徒、
もしくは洋服を着ない民族です。
(それでもその民族のあいだでは彼らなりの流行があるかもしれません)
どんなに定番を買ったとしても、
トレンドには影響されます。
それは永遠ではありません。
多くの人が言う今の「定番」は、
10年後に見たら、
定番でも何でもない可能性もあります。
ではどうしたらいいでしょうか。
たくさん所持しないことです。
定番のものでもシルエットが変化していきますので、
定番だからといって、何枚も所持しないこと。
くたびれたころにちょうど新しいものを買えるぐらいな、
そんな状態を維持できるぐらいの枚数にワードローブ全体をおさえておけば、
適度にトレンドを取り入れつつ、
かといって、トレンドに振り回されるということもありません。
自分がぶれなければ、
トレンドなど怖くもありません。
自分というものがあるならば、
トレンドさえ超えることができます。
トレンドに影響されたくないのなら、トレンドを超越したおしゃれな人を目指すといいでしょう。