私は当初より、似合う似合わない論争は不毛だからしない、と言っています。
理由は、最終的に日本人は洋服が似合わない、に落ち着くからです。
誰もが時代劇の中で、子どもからお年寄りまでが着物を着ているのを見て、
ああ、この子供は着物が似合う、ああ、あのおばあさんは着物が似合わない、
などと思わないでしょう。
日本の気候風土、靴を脱ぐ生活様式から考えても、
いまだ、日本人にぴったり似合うのは着物なのです。
しかし服は、似合う似合わないにかかわらず、着なければいけないもの。
だから、似合わないにまっすぐ向かっていくしかない、不毛な論争をする必要はありません。
それでも、他人がどう思うかは別にして、
自分で似合うと思える服に出会いたい、探していると言うのなら、
たぶんそれは、行動の方向性が間違っています。
今の「服が似合わない」と感じる自分のままで、
どこかへ似合う服がありませんか、と探し続ける旅に出ても、
似合う服は見つからないでしょう。
それはを探すヒントは、
まるであの「青い鳥」のように、自分の家の中にあります。
自分の家、すなわち自分の肉体がヒントです。
似合う服がないと感じるのなら、
それはあなたの普段からの姿勢と身のこなし方が、洋服に合っていないのです。
それは着物でも同じです。
洋服を着たときと同じ歩き方、同じふるまいで着物で行動してみたら、
着物は似合いません。
着物のときは内またで小幅、腕も挙げすぎないなど、
着るものに合うような姿勢とふるまいをすることによって、
よりいっそう着物はその人に似合うものとなります。
洋服も同じです。
端的に言うと、姿勢がよくないと、洋服は似合いません。
現在、以前にもまして姿勢が悪い、いわゆる猫背の人がふえました。
電車で座っている人たちをながめてみると、
皆、前かがみでスマホの画面をみつめています。
子どもは子供で、重たいランドセルやリュックのために、
身体が前方に倒れた姿勢で歩いています。
周囲が姿勢の悪い人ばかりなので、なかなか気づきにくいとは思います。
もし見る機会があれば、
昔から着物を着る文化の国から来た観光客を観察してみてください。
少し前、私もJR藤沢駅の改札前で立っていた、
非常に洋服が似合う黒人女性を見たことがあります。
着ていたのはネイビーのスーツ、インナーはたぶんTシャツ。
彼女は大勢の中、ただ立っているだけでした。
服それ自体が特に高級なものではなく、ごく普通のスーツです。
しかしその立ち姿の美しさが、彼女を周囲から抜きんでておしゃれな人に見せていました。
日本のふつうの教育を受けてきた人は、
立ち方、歩き方、そして発声の仕方など、
習う授業はありません。
それは演劇やダンスを習う人以外、なかなか教えてもらう機会はないものです。
ですから皆、自己流に立って、自己流に歩いています。
自己流でしかも猫背のまま、何も意識しないでいたら、
いつまでたっても洋服が似合う姿勢にはなりません。
洋服は、体型はカバーできますが、
その人の姿勢までは修正できません。
それは、帯を締めることによってある程度、姿勢を修正する着物とは大きく違います。
まずは自分の普段の姿勢がどのようになっているのか確認しましょう。
ミラーやショーウィンドウに写る自分の歩く姿を都度チェックしてください。
正しい姿勢がわからない、あるいは自分で修正の方法がわからない場合は、
仕方がありません。
習いに行きましょう。
多くはありませんが、洋服に合う歩き方、身のこなし方を教えてくれる場所はいくつかあります。
スマホとパソコンのせいで、
日本人の姿勢は年々悪くなってきました。
また、年をとると姿勢も悪くなっていきます。
姿勢が悪いうちは、
どこへ行っても自分が納得する似合う服は見つけられないでしょう。
あなたが思う「似合う服」に出会うために必要なのは、
家に帰って、「青い鳥」である自分の身体の姿勢を正すことです。
痩せている、太っているといった体型の問題ではありません。
似合う服を探すのではなく、
服に似合う自分になること、
それが似合う服を見つけるための一番の早道で、かつ唯一の道です。
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