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2013年9月2日月曜日

黒い服を着ていれば、それでおしゃれ?

80年代、日本人デザイナーたちが次々と、パリコレクションへデビューしました。
それは「黒い衝撃」と呼ばれ、
コム・デ・ギャルソンやヨージ・ヤマモトに代表されるように、
立体感のないビッグシルエットで、黒い服だけで構成されたショーは、
ファッション業界に衝撃を与えました。

それまで全身黒の装いというものは、ソワレに代表されるようなドレスか、
または喪服であり、決して日常の風景には見られないものでした。
それは日本でも海外でも同じことで、
毎日を黒一色で過ごすという女性は未亡人か、
何か特殊な職業の人であったでしょう。

しかし、80年代以降、まずはファッションに携わる人たち、
そしておしゃれな人へと、黒一色の装いは広がっていきました。
20代そこそこの若者もこぞって黒い服を着始め、
若さの表現とはほど遠い、独特の雰囲気を醸し出しました。

あれから30年が過ぎ、
黒一色の装いは社会的にも認められ、
小さな子供までもがするような、ごく一般的なものになりました。
しかもそれは、ただ単に黒一色の装いが認められたというだけではなく、
明らかに、黒を着ていればおしゃれに見えるという、
一種の迷信的な、付属的な意味合いも付け足されるようになったのです。
さて、では、黒い服を着ていれば、本当におしゃれに見えるのでしょうか。

確かに、黒一色でコーディネイトしてしまえば、
全体の配色について考える必要がありません。
そのため、色がちぐはぐになっておしゃれに見えないという、
色による失敗はありません。
それはメリットと言えばメリットでしょう。
たんすの中に黒い服しかないのなら、
毎朝、色合わせで悩む必要はありません。

しかし、実は、黒は残酷な色です。
色味がない分、ほかの部分を隠すことなく写し出します。
黒い色ですべて不都合が隠されていると考えるかもしれませんが、
事実はまったくその逆です。

黒は、すべての素材のよしあしを明らかにします。
いい素材か悪い素材かは、その素材が黒であるならば、隠すことができません。
高級なウールと安いウールでは、その黒色は明らかに違います。
革も同様です。安い革の輝きはそれなりのものです。
また同時に、黒はその素材の劣化も隠すことができません。
洗濯での色落ちや毛羽立ちも、黒はより一層浮き上がらせます。

そして、黒は配色によるボリューム感をコントロールできない分、
シルエットがあからさまに出ます。
そのため、古いシルエットの服はより一層古臭く見えるのです。
もし黒い服でおしゃれに見せたいのなら、
常に新しいシルエットを追わなければなりません。
シルエットを表現するのに黒い影がよくつかわれるように、
まさに、黒い服とはシルエットのみで構成されている服なのです。
ファッション業界の人たちが着る黒い服とは、
常に最新の黒い服です。
新しいシルエットが強調されるから、それはおしゃれに見えます。

そして何より、
黒は、着ている人自身を隠すことができません。
隠れることができないのは、白日の下にさらされたときだけではありません。
黒い服を着たときも、
姿勢、筋肉、肌の状態、歩き方など、ほかの色のどの色より、黒は一層目立ちます。
そして、姿勢やその歩き方、筋肉の着き方などからその人の考えていること、感情の浮き沈み、
肌の状態から、どんな健康状態なのかまで、
無言のまま、他人に伝えてしまいます。
黒とは、決して隠す色ではないのです。
着ている人の想像以上に、着ている人そのものを相手に伝えてしまう色なのです。

そんな黒を最もおしゃれに着こなしたいなら、
新しいシルエットのものを着る、
洋服のメンテナンスは怠らない、
そして何より自分を律することが大事になります。
そうすれば、それは完璧なおしゃれになります。

そんなの無理、できないという声がいろいろな方向から聞こえてきそうです。
別にふつうの人は、完璧なおしゃれなど、する必要はありません。
完璧ではなく、隙を作ればいいのです。
隙は、立派な魅力です。

隙を作るためには、黒一色はわざと避けて、
黒と何か違う色との2色コーディネイトにする、
または、黒からグレーのグラデーションにするなどです。
2色の場合は、それが金や銀のアクセサリーでも構いません。
全身黒の完璧なコーディネイトを崩すことによって、生まれるその隙を、
今度は新しい魅力として取り入れればいいわけです。
そうすれば、必要以上に、その人自身が目立ったり、
黒いニットの小さな毛玉に注目がいくこともありません。
他人の目は、その崩れた隙のほうに向かいます。

黒は、別に悪い色ではありません。
同様に、いい色でもありません。
そこにいい悪いを見るならば、それはその人の心理が反映されているだけのことです。
黒が写し出すのは、ただ事実のみ。
それがいいか悪いかを判断するのは、人の心だけです。
黒はコントロール不能の色です。
他人がどう思うか、もはや制御することはできません。
そして、自分をどう見せるのかも、手放さざるを得ません。
自分の中のコントロールできない部分、
それを他人に見せる色が、黒という色なのかもしれません。
いかにも黒は、残酷な色なのです。