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2014年5月19日月曜日

肩のライン

洋服の流行がどこにいちばんあらわれるかと聞かれれば、
それは肩のラインですと答えます。
もちろん、シルエットがタイトになったり、
ビッグになったりするのですが、
服のすべてを支える肩ラインには、
シルエット以上の流行のすべてがあらわれます。

肩のライン、つまり首の付け根から袖に続く線ですが、
そこをどう形作るかという点に、
その時代の美意識があらわれます。

たとえば、60年代から70年にかけて、
肩幅はナチュラルな状態より多少、狭く設定されていました。
それが80年代に入ると、
肩幅は広がり、肩パッドの厚みも増していきました。
大きいものでは2センチぐらいあったでしょう。

広い肩幅、大きな肩パッド、四角い肩ラインの時代は、
その後、90年代終わりごろまで続き、
再び、2000年に入ると肩幅は狭まり、
肩パッドは完全に撤去されました。

そして2014年現在は、2年ほど前からあらわれた新しいシルエットの流れにしたがって、
肩は丸く、しかし肩パッドは入れずにナチュラルへ、
という方向を進んでいます。
そして、この肩ラインを表現するために、ラグラン・スリーブが多く出現しています。

ラグラン・スリーブとは、肩線と袖がつながった形の袖なのですが、
肩線から袖にかけてなだらかなカーブを作り出すことができます。
それは、セット・イン・スリーブでは描くことができない肩のラインです。
そのなだらかなラインが今の時代の気分であり、
理想の女性像を描くのに最も適していると多くのデザイナーが感じているからこそ、
ラグラン・スリーブは選ばれています。

肩のラインが描き出すのは、
その時代のファッションが志向する女性像です。
肩幅、肩パッドの有無、描き出すラインによって、
その時代の女性がどちらの方向を向いているのか、
理想像は何なのかを表現しています。
それは言語化される前の、多くの人の無意識に流れる、
まだ見ぬ女性像です。
デザイナーたちはいち早くそれをキャッチし、
服の肩ラインに落とし込みます。

ベアショルダーのドレスを除いては、
シャツもブラウスも、ジャケットもコートも、
洋服のパーツを支えるのは肩のラインです。
肩をほどいてしまえば、服はばらばらになってしまいます。
洋服にとっての肝は肩なのです。
そして、その洋服の肝は、構造上、すべてを支えているだけではなく、
印象を決定づける位置でもあります。

同じ身幅、同じ着丈でも、
10年前のものは、肩のラインが今のものとは違います。
そしてその違いが、その10年前の服を古臭く見せます。
古いのはその生地や仕立てではなく、
その服が表現しようとしているイメージです。
肩パッドの厚みと肩幅の数ミリの違いが、
そのイメージのすべてを左右します。
そしてそのイメージの違いとは、
夢見た女性像の違いです。
あのころ私たちが素敵だと思った女性は、
今、素敵だと思える女性とは、違うということです。

素敵だと思える女性は、時代によって変化していきます。
同時に、あなた自身も時代とともに変化していきます。
どちらも同時進行です。
戻ることはありません。
その時代にはその時代の、
その年齢にはその年齢の、
いつでも新しい「素敵な女性像」があります。
そして、それが本当に素敵に見えるためには、
それが単なる変化でなく、進化でなくてはいけません。
逆に、それが進化であるならば、
年を重ねるということは、いつでもポジティブな意味になります。

残念ながら、日本には、年を重ねることによって進化した、
女性像の見本が少ないです。
若さに異常な重きを置く文化の中で、
それを見つけるのは難しいです。
ですから、私たちはそれぞれが、自分なりの進化した女性像を作っていく必要があります。

現在、肩のラインはゆるやかで、なだらかです。
肩で風を切るための、分厚い肩パッドも入っていません。
なだらかで優しく、
自然で動きやすく、
束縛から逃れるように、
軽やかに進んでいく、
そんな女性像が今の理想です。
理想は理想のままで置いておかないで、
自分でそれになってしまいましょう。
誰かにお手本を探さないで、
自分がその姿になりましょう。
肩のラインを変えるだけでそうなれる、
優れたデザイナーたちは、そう教えてくれています。