洋服の流行がどこにいちばんあらわれるかと聞かれれば、
それは肩のラインですと答えます。
もちろん、シルエットがタイトになったり、
ビッグになったりするのですが、
服のすべてを支える肩ラインには、
シルエット以上の流行のすべてがあらわれます。
肩のライン、つまり首の付け根から袖に続く線ですが、
そこをどう形作るかという点に、
その時代の美意識があらわれます。
たとえば、60年代から70年にかけて、
肩幅はナチュラルな状態より多少、狭く設定されていました。
それが80年代に入ると、
肩幅は広がり、肩パッドの厚みも増していきました。
大きいものでは2センチぐらいあったでしょう。
広い肩幅、大きな肩パッド、四角い肩ラインの時代は、
その後、90年代終わりごろまで続き、
再び、2000年に入ると肩幅は狭まり、
肩パッドは完全に撤去されました。
そして2014年現在は、2年ほど前からあらわれた新しいシルエットの流れにしたがって、
肩は丸く、しかし肩パッドは入れずにナチュラルへ、
という方向を進んでいます。
そして、この肩ラインを表現するために、ラグラン・スリーブが多く出現しています。
ラグラン・スリーブとは、肩線と袖がつながった形の袖なのですが、
肩線から袖にかけてなだらかなカーブを作り出すことができます。
それは、セット・イン・スリーブでは描くことができない肩のラインです。
そのなだらかなラインが今の時代の気分であり、
理想の女性像を描くのに最も適していると多くのデザイナーが感じているからこそ、
ラグラン・スリーブは選ばれています。
肩のラインが描き出すのは、
その時代のファッションが志向する女性像です。
肩幅、肩パッドの有無、描き出すラインによって、
その時代の女性がどちらの方向を向いているのか、
理想像は何なのかを表現しています。
それは言語化される前の、多くの人の無意識に流れる、
まだ見ぬ女性像です。
デザイナーたちはいち早くそれをキャッチし、
服の肩ラインに落とし込みます。
ベアショルダーのドレスを除いては、
シャツもブラウスも、ジャケットもコートも、
洋服のパーツを支えるのは肩のラインです。
肩をほどいてしまえば、服はばらばらになってしまいます。
洋服にとっての肝は肩なのです。
そして、その洋服の肝は、構造上、すべてを支えているだけではなく、
印象を決定づける位置でもあります。
同じ身幅、同じ着丈でも、
10年前のものは、肩のラインが今のものとは違います。
そしてその違いが、その10年前の服を古臭く見せます。
古いのはその生地や仕立てではなく、
その服が表現しようとしているイメージです。
肩パッドの厚みと肩幅の数ミリの違いが、
そのイメージのすべてを左右します。
そしてそのイメージの違いとは、
夢見た女性像の違いです。
あのころ私たちが素敵だと思った女性は、
今、素敵だと思える女性とは、違うということです。
素敵だと思える女性は、時代によって変化していきます。
同時に、あなた自身も時代とともに変化していきます。
どちらも同時進行です。
戻ることはありません。
その時代にはその時代の、
その年齢にはその年齢の、
いつでも新しい「素敵な女性像」があります。
そして、それが本当に素敵に見えるためには、
それが単なる変化でなく、進化でなくてはいけません。
逆に、それが進化であるならば、
年を重ねるということは、いつでもポジティブな意味になります。
残念ながら、日本には、年を重ねることによって進化した、
女性像の見本が少ないです。
若さに異常な重きを置く文化の中で、
それを見つけるのは難しいです。
ですから、私たちはそれぞれが、自分なりの進化した女性像を作っていく必要があります。
現在、肩のラインはゆるやかで、なだらかです。
肩で風を切るための、分厚い肩パッドも入っていません。
なだらかで優しく、
自然で動きやすく、
束縛から逃れるように、
軽やかに進んでいく、
そんな女性像が今の理想です。
理想は理想のままで置いておかないで、
自分でそれになってしまいましょう。
誰かにお手本を探さないで、
自分がその姿になりましょう。
肩のラインを変えるだけでそうなれる、
優れたデザイナーたちは、そう教えてくれています。