黒いパンプス、
黒いバレエ・シューズ、
黒いローファー、
黒いサンダル、
黒いレースアップ・シューズ、
黒いブーツがひとそろえあれば、
それで1年中過ごせますし、
おかしく見えることはありません。
それに黒いバッグを組み合わせれば、
申し分ありません。
誰も文句は言えません。
しかし、おしゃれ上級者の人たちを観察していると、
このバランスを崩し、
特に靴の色に関して、わざとこのオーソドックスな黒を外しているということがわかります。
彼女たちは、明らかに、しかも確信を持って、
あえて黒い靴を選びません。
黒い靴に黒いバッグをあわせるという安全策はとらないで、
あえて冒険して、黒以外の靴を選びます。
はっきり言って、それが本当に合っているかどうかは疑問です。
そこには特にルールがないからです。
「絶対」はありません。
しかし、徹底的に黒を外してくるその態度はまさに、
おしゃれなのです。
では、彼女たちはなぜあえて、不調和ぎりぎりの色の靴をそこに持ってくるのか。
また、色ばかりではなく、例えばスーツにスニーカーや、
ストラップのついたサンダルをあわせたり、サボをあわせたりするのか。
その理由の1つは、ほかの人と同じスタイルを避けるため。
ここで黒い靴、黒いバッグではいかにも平凡です。
何の工夫もありません。
誰でもが考え付く、かつできるスタイル。
その凡庸性から逃れるために、黒い靴を避けます。
そしてもう1つの理由は、あえて完璧であることを避けるためです。
完璧とは、完成ということ。
進化の終わりということ。
それ以上がないということです。
人はなぜか、発展性のないものに惹かれません。
惹かれないだけではなく、退屈さえ覚えます。
当然のことながら、興味の対象からは外されます。
未来が楽しみな子どもや若者は、それだけで柔らかい存在です。
若木のようなしなやかさは、それだけで魅力です。
はかることができない伸びしろが、それがどうなるかわからないからこそ、
魅力的なのです。
一方、年を重ね、
固い殻に閉じこもり、柔らかさを失った大人に魅力を感じるのは難しくなります。
反応の遅さ、
感受性の鈍さ、
決まり切った受け答え、
それが固定してしまった人は、自然と他人を遠ざけます。
そういった大人が必ずはいている黒い靴は、
あたかもその人の句読点のように、
固い殻の入口をしっかり閉じます。
どんなに完璧な格好をしたところで、
魅力がないのであれば、意味がないのです。
私たちがおしゃれをすることで目指したいのは完璧であることではなく、
魅力があることなのです。
魅力とは、見る人の心を動かす力です。
完璧だけれども、心が一ミリも動かないスタイルをしたところで、
ちっとも面白くありません。
黒以外の色の靴は、
見る人の心を動かします。
どう解釈していいのか、迷います。
けれども、それを見ずにはいられません。
何がいいのかわからなくても、
目にはその印象が焼きつきます。
心が動き、そこにドラマが生まれます。
それが「赤い靴」であるならば、映画のテーマにさえなり得ます。
完璧だけれども、退屈なスタイルにはまっているのなら、
思い切って、黒以外の色の靴を選ぶことをお勧めします。
茶色や白など、ベーシックな色の場合はそれほど難しくはありませんが、
赤、グリーン、黄色など、
靴としてはあまり選ばれないような色になればなるほど、
難易度は上がっていきます。
まずはスニーカーやバレエ・シューズで試してみましょう。
夏のビーチ・サンダルでも構いません。
靴屋の全身が映る姿見の前で、
まずは黒い靴をはいてみて、
そのあとに、ふだんは絶対に選ばないような、
けれども、実は大好きな色の靴をあわせてみてください。
どの色の靴を選べばいいかわからない場合は、
いつもさし色として使う色を持ってくるのが一番簡単な方法です。
まずはそこから始めましょう。
魅力があるところには会話が生まれます。
そして、関係は発展します。
固い殻に閉じこもっていたのでは、
誰も声をかけません。
それを変えることができるのは自分だけです。
変えるつもりがないのなら、
それは永遠にそのままです。
靴の色を変えるというその意思表示は、
自分を変えるための第一歩になるでしょう。
いつだって物語は、
主人公が変わると決意したところから始まります。
新しい物語を始めましょう。
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