希少なものを重んじ、薄く広まったものを嫌うというおしゃれの法則は、
時間的なもの、地理的なもの、両方において通用します。
地理的に、例えば都会から田舎へ広がったときに、それは飽きられ終わりますし、
時間的に、最初から最後にかけて、量的に飽和状態になったときにも、
おしゃれという意味が急速に失われます。
季節の先取りをよしとするおしゃれは、
季節の遅れをよしとはしません。
季節を早く先取りするから意味があり、
季節が移り変わったなら、
気温がたとえ高かろうが、低かろうが、
次の季節への移行を推奨します。
春先からゆっくり時間をかけて、
徐々に取り入れていった春夏物は、
立秋を境に、急速に輝きを失います。
同様に、晩夏から取り入れていった秋冬物も、
立春を過ぎたら、 魅力を感じません。
季節を感じさせるものには、気温と光の2つがあります。
肌に身につけるという性質上、
洋服において、季節とは気温だけの問題ととらえがちですが、
それがファッションと呼ばれるようになった瞬間に、
問われるのは気温ではなく、
光の加減です。
春分、夏至、秋分、冬至という、太陽と地球の関係が変わる地点から、
明らかに、疑いようもなく、
光の加減は変わります。
春分、夏至、秋分、冬至は、
いわば春夏秋冬の最高の光を見ることができる時期です。
しかし、毎年正確に太陽の光は傾き、
立春、立夏、立秋、立冬の時期に、すべてのものは、
その頂点のころとは同じには見えません。
光が変われば、色は違って見えます。
どんなに暑くても、立秋を過ぎれば、
あの輝いた夏の白は、もう同じ白ではありません。
どんなに寒くても、心にぬくもりを与えたあのモヘアのダークブラウンは、
うっとうしく感じられます。
季節を先取りし、その頂点を目指して選んできたそれぞれの季節の服は、
立春、立夏、立秋、立冬をもって、
蔓延し、
眼はもうそれらを見ても、愉しみを得ることができなくなります。
眼はいつでも愉しみを探しています。
眼の喜び、愉しみは、まぎれもなく魂の栄養となります。
私たちは、眼から栄養を摂取し、
それが切れるまで、生き延びることができます。
しかし、
私たちの多くが、魂の栄養不足にあえいでいます。
顔と同様に、私たちの全身の姿もまた、
自分自身よりも他人から見られる機会のほうが多いものです。
私たちの眼は、自分自身の姿よりも、
多くの他人の姿を眼に映し、
脳内にそれを取り入れます。
脳内はそれらを処理し、ある一定量を過ぎると、
飽きるという状態を生みだします。
ファッションは通常、春夏物と秋冬物にわかれます。
眼から取り入れた、春夏物の情報が脳内で一定量を超えてくるのが、
立秋の頃です。
その頃には、眼は春夏物の衣服からは、喜びを得られなくなっています。
この2.点、
つまり、光の加減の変化、
そして、眼が衣類から愉しみがなくなったという、その点から、
もしもおしゃれでいたいのなら、
立春と立秋が過ぎたころから、
私たちは、ワードローブを徐々に次の季節に変化させるべきです。
単純に言えば、立春が過ぎたら明るく(ライト)に、
立秋が過ぎたら暗く(ダーク)に、です。
しかしここで、気温の問題が立ちはだかります。
ここ最近の日本の気温は、4月の終わりまで寒く、
10月の頭まで暑い日々が続きます。
春は薄手のもの、秋になったらウールなどの寒さを防ぐものという考えでいると、
これでは次の季節のものは着られません。
ですから、ここは、新しい考え方、新しいワードローブが必要になります。
私たちに本当に必要なのは、
暑さに対応した秋物と、寒さに対応した春物です。
気温に対応しつつ、変化した光の中で美しい色合い。
秋だったら、すべての色がより濃く、ダークに傾きつつ、
素材は薄いコットンやシルク、サマーウールなど、着ていて暑くならない素材。
春だったら、色はより明るく、光を取り入れて、
それでも素材はカシミアやコットンシルク、厚手のウールや、
薄いダウンなど、寒さをしのげる素材。
シルエットには、その次のトレンドを少し取り入れて。
2015年現在では、断然、シルエットはゆるく、大き目に傾いているので、
間違っても、身体にぴったりフィットする、タイトなTシャツやニットなど選ばず、
流行の先を見据えたシルエットのものを買い足して。
そうすれば、気温にも対応し、
眼も愉しみを得られます。
立春過ぎのホワイトジーンズの白に、人々の目は釘付けにされ、
立秋過ぎの秋の実りブドウのような紫のストールが、夏の乾いた心を潤します。
まだまだ夏の装いで街行く人が多い時期、
新しい考え方の秋物の装いで、
ショップのウィンドウに映る自分の姿を見てみたら、
あなたの眼は喜び、それは魂の栄養となります。
本当に欲していたのは、最終セールで売られている新品の夏物のドレスなんかじゃなく、
それは去年買ったものかもしれないけれども、
半年眠っていた、秋冬物の色合いです。
そして、本当に見たかったのは、
それをふさわしい光の下、多くの人より早く着てみた、
自分の姿です。
今の時期、つまらない夏物のセール品を買うよりも、
まだ持っていないのならば、
立秋以降に着られる、暑さにも対応した秋物を買ったほうが、
よほど賢い買い物です。
もちろん、そんなものはまだまだ多く売られていません。
それでも探せば、ないこともありません。
それは今よりも少しダークな色合いのストールや帽子、靴でも構いません。
何かしらはどこかに売っています。
眼の愉しみ、喜びを軽んじないで。
太陽の傾きに敏感になって。
どんなに暑くても、立秋を過ぎれば、秋の花が、
どんなに寒くても、立春を過ぎれば、春の花が咲き始めます。
おしゃれもそれと同じです。
季節の変わり目の時期、
光や色にどれだけ敏感に生きているか、
それを見分ける感性を養ってきたか、
おしゃれな者はそれを問います。
そんなささいなことが、
そんな小さなことが、
おしゃれには重要なのです。
それらに鈍感で、怠惰になるか、
敏感に取り入れて、ひと工夫するか、
そこが分かれ道です。
それは人生と同じです。
怠惰な人は怠惰なりに、
努力した人は努力した人なりに、
人生もおしゃれも、
その点においては、平等です。
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