日本経済はこの30年ずっと下り坂でした。
しかも単に下るだけではなく、次々と周囲の国に抜かれていき、
個人の収入の面ではかなり差がついてしまいました。
家計に占める被服費の低下とともに、
安い素材を使った衣服が大量に出回るようになりました。
定価が安い、いわゆるファストファッションで売られている衣服は、
素材、工賃ともに安いものが使われています。
その結果もたらされたのが素材の平板化です。
安い素材の代表はまず機能性素材でもなく、かつ特殊な技術を使って作られたものではないポリエステル、そして、特に高級な素材ではないカットソー素材です。
もちろん中にはポリエステルをはじめとする化学繊維の中にも高級なものはあります。
コットンにしても海島綿と呼ばれる高級コットンもあります。
特殊な原材料、あるいは製造の技術のもと作られたものは素材としてもすぐれています。
例えばプラダの2024年SSコレクションで使われたスーパーオーガンザは同じポリエステルでも特殊なポリエステルです。
こういった素材を使ったものは決して安くは売られていません。
ここで話題にしたいのはこういった特に優れた素材ではなく、
一般的に安い素材です。
安い素材の特徴は平面的で、これといった特徴がないこと。
細い糸で編まれたカットソーはそのままでは平面的な素材のままであり、
つるりとしたポリエステルもそのままでは、滑りはよいものの、特に特徴のない素材です。
定価が安いから安く手に入るという理由でこれらフラットな素材のものだけを集めていくと、ワードローブが平坦なもの、退屈なものになります。
理由は素材のテクスチャーがどれも同じで変化がないからです。
シャツもパンツもジャケットもコートも、
どれも平坦で特徴のない素材で作られたアイテムだけで全体をスタイリングすると、素材による影が表面に生まれないため、どうしても立体感の乏しい印象になります。
それが身体から離れたビッグシルエットであるものならば、
衣服はまるで壁のように見えるでしょう。
たくみなスタイリングをするためには、素材感を変えていく必要があります。
つるつるやふわふわ、
深い影、あるいは透け感、
畝や凹凸、
こういったものを組み合わせることにより、身体にも立体感とリズムが生まれ、
スタイリングは退屈で平凡なものから目を見張るような非凡なものへと変化します。
自分が選んだ服を着てみて、
なんとなくのっぺりとした印象があると感じるのなら、
凝った素材のものを一点投入してみてください。
透けるオーガンジーならより軽く、
凹凸のあるレースなら、より立体的に、
畝のあるコーデュロイなら温かみが、
艶めく光るサテンならほどよい冷たさが、
ルック全体に足されるでしょう。
テクスチャーにこだわった高級な素材は、それなりに定価も高くなります。
だからこそ、これらはセカンドハンドで手に入れるのが一番です。
無理しない範囲で付け足していきましょう。
平凡な日常を切り取られたドラマの一場面のように変えるためには、
素材の魔法が必要です。
オーガンジーとヴェルヴェットで、つまらない日常を特別なものに変えましょう。
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