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2022年1月20日木曜日

これからは「顔高服低」の時代へ

 約1年前、これからは「顔の時代」になると書きました。
もう既に一部では、そのようになっています。

しかし単純に「顔の時代」になるわけではありません。
それは天気予報風に言うならば、「顔高服低」の時代です。
つまり、メイク、美容、ヘアスタイルにはお金も労力もかけるけれども、
服にはかけない時代です。

具体的に言うと、
コスメはシャネル、ディオール、サンローラン、ジバンシーといったハイブランドのものを使いつつ、着ているものは中古や古着でもよいという考えです。
人によっては、年間のヘアメイクにかかった経費は、被服費を上回るでしょう。

理由はいろいろあります。

ひとつは、現在の流行サイクルが終わりに近づきつつあること、
そして次のサイクルは顔、そして肉体そのものが重要な時代になるだろうということ。

二つ目は、クオリティの高い衣服は定価で買うことが不可能なほど高価なものになったけれども、メイク用品であったら、ハイブランドのものでも1万円もあれば、何かしら買えること。

三つ目は、手が出ない高価な服、靴、バッグのヴィジュアルを見ていらいらしているよりも、手が出るメイク用品を実際に手に取って、自分の顔にのせてみたときのほうが、よほど気分が高揚するし、満足することです。

誰かがおいしそうな食べ物を食べているのを、指をくわえて見ているだけの時間が長くなればなるほど、私たちのみじめな気持ちも続きます。

そのみじめさから脱出するためには、手に届くおいしいものを今すぐ食べたほうがいいのです。

稼げるようになったらいつか買えるとか、
お金がたまったら買おうとか、
そんな来るかどうかわからない未来を待っているよりも、
今すぐに買えて、自分で試してみて、
明日からそのまま出かけられるもののほうが、ずっと価値が高いのです。

人生は待ってくれません。
その間に私たちは年を取り、輝く肌も、しなやかな肉体も徐々に失われていきます。

いつかなんて、永遠に来ません。
それは30年待っても来ませんでした。
そしてこれから30年たっても、来るとは到底思えません。

それならば、多くの人は顔重視を選ぶでしょう。
鏡にうつったその顔が、ありとあらゆるピンクや赤で染まるとき、
買えないものばかり見せられて、あきらめそうになった気持ちが、
再び立ち上がります。

1万円あれば、何か新しいコスメは多くの選択肢の中から選べて、かつ経験できます。
丁寧な接客を受けて、サンプルもいただけて、立派なショッパーに入れてもらえます。
しかし、1万円では、新品の服の選択肢は限られます。
クオリティの高い古着でさえも、1万円以内で買うことは難しくなっています。

選択の自由があることは重要です。
そしてこれからは多くの人が、1万円を握りしめ、コスメ売り場へ赴き、
その選択の自由を行使していくでしょう。
エルメスでさえ、コスメであれば買うことができます。

服については、クオリティの高い中古や古着の服、靴、バッグを選び、
少しばかりの新品を加えてワードローブを構築し、
季節ごとにメイクを変え、新しさを表現していく、
そんな人がこれからもっとふえてくるでしょう。

選べなくなったら終わりです。
選べないとわかったら、途端にそれはどうでもよいものとなるのです。

選べることの重要性をかみしめながら、
私たちは次に来る新しい季節のためのアイシャドウやマスカラ、そしてリップを吟味するでしょう。
それは、私たちが実際に手に入れることができる未来です。 


2022年1月2日日曜日

チープシックを加速して

 『お金をかけずにシックなおしゃれ 21世紀のチープシック』(KADOKAWA)を出したのは2018年のこと。
この本はそれまで私が言ってきたことに加えて、お買い物の仕方についても言及したものでした。

2017年、2018年ごろは、まだまだチープシックを実践している人は少数派。
ワンシーズンにファストファッションのアイテムを何枚も買って、そのシーズンで捨てるという人もたくさんいました。

けれども、もうそんなことをやっている場合ではないでしょう。
2010年ごろから転げ落ちるように、日本の購買力は低下。
今では1970年代と変わらないほどになってしまいました。
それは、アメリカやヨーロッパへ旅行したり、海外通販で何か買おうとしたときに実感できると思います。

円安が進んだため、輸入に頼っている日本のアパレル製品も、これから値上がりしていくでしょう。
しかし実質賃金はこの30年間ほとんど上がっていません。

もう一つ、サステナビリティの問題があります。
世界的なパンデミックの期間を経て、サステナビリティに配慮した消費行動が強く意識されるようになりました。
気候変動に対する危機感も高まっています。
アパレル産業は気候変動へのインパクトが高い産業であり、企業のみならず、消費者の行動が問われるようになってきました。
(参照:BBC「ファストファッションの末路」こちら

では簡単にチープシック的な行動をまとめてみましょう。

1 less is more。いいものを少なく持ち、長く着る。
これがすべての基準です。人間の身体はひとつ、1日は24時間です。それほどたくさんの服、靴、バッグは必要ありません。着ているものだけでワードローブを満たす。
まずはここが出発点です。

2 古着、中古品を利用する。
いいものの値段が上がっています。定価で手に入れるのはますます困難になりました。
定価では買えなくても、古着や中古なら買えるものも多くあります。
何か新しく付け足すときには、古着や中古も探してみましょう。
サステナビリティの観点からも、これは重要です。

3 リメイク、リデザインする。
着られなくなったものは、どこかしらリメイク、リデザインできないか検討してみましょう。
ジュエリーをリメイクして使うのもいいでしょう。

4 シェアする。レンタルする。
自分が持っていないけれども、たまに着たいと思うものは誰かとシェアするか、借りましょう。
服やバッグも使ってこそ、その存在に意味があります。
使っていない誰かのものは、積極的に頼んで借りましょう。

5 長もちさせるために自分でメンテナンスする。
自分で洗えるものは洗いましょう。
また洗いすぎると、服は劣化するので、洗いすぎにも注意しましょう。
また最近では洗濯によるマイクロプラスチックの海への流出が大問題となっています。
マイクロプラスチックが出そうな素材については、あまり洗わない、洗濯ネットに入れるなど、洗い方に注意するようにしましょう。

6 要らなくなったら売れるものを買う。
買い物に失敗はつきものです。
しかし、失敗しても誰かが買ってくれるようなものを買っておけば、その打撃は最小限に抑えられます。
チープな大量生産品はセカンドハンドショップで大量に売れ残っています。
そういうものではなく、すぐに売れてしまうような、誰か欲しい人がいるものを買うようにして、要らなくなったら売りましょう。

7 ポリウレタンに注意。
消費期限が3年と言われているポリウレタン含有素材に注意しましょう。
目安は5%です。
5%を超えてくると、3年経過したころから劣化が目立つようになります。
劣化するとべたべたしてくるポリウレタンコーティングのバッグも注意です。
高価でもポリウレタン含有素材のものもあるので注意しましょう。

8 自分で作る。
自分で作ったものはそれだけで愛着があり、長く使うことになります。
作れる人はクリエイティビティを発揮して、何か手作りしましょう。

9 作家のもの、一点ものを買う。
作家のもの、または一点ものも大事にするものの一つです。
作家をサポートする意味もありますので、好きな作家がいたら、
その人の作品を買って、大事に使いましょう。

10 オーガニック、リサイクル素材を取り入れる。
オーガニックコットンや、健全に育てられた羊からとられる羊毛、またリサイクルポリエステルなど、環境に配慮して作られた素材をなるべく選ぶようにしましょう。
すべてオーガニックにするのはまだまだ難しい状況ですが、選べるならば、オーガニックやリサイクル繊維を選びましょう。

こんな感じでしょうか。

実は、安いからといって、ファストファッション製品を何枚も買うよりも、
いいものを少なく持って、長く着るほうがお金はかかりません。
目先の利益にとらわれて買い物をすると、結局損するのは自分です。

サステナブルな生産や消費の世界的な傾向は、もう止まりません。
チープシック的なお買い物は、同時にサステナビリティを配慮したものになります。

今までできていなかった人は、気づいたときがスタートです。
遅いということは全くありません。
そして、今までもチープシックを実践できていた人は、それを強化して。
オーガニック素材を取り入れたり、生産背景がわかるものを買うなど、
サステナビリティと倫理に配慮した買い物ができるようになりましょう。

あなたが世界に投げかけたものは、いずれあなたに戻ってきます。
人生を、そして世界をよりよくするためにも、
チープシックを加速させましょう。

※詳しく知りたい方は『お金をかけずにシックなおしゃれ 21世紀のチープシック』
小林直子 KADOKAWA をお読みください!