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2014年7月29日火曜日

猛暑対策とおしゃれ

※「猛暑に着る涼しい服」の動画を2020年8月に作りました。あわせてごらんください。

衣服を身につけることの第一義的な意味は暑さ寒さを防ぐことにあります。
装飾や個人であることの認識はあくまでその後の問題で、
まずは暑さ寒さを防がないことには意味がありません。

さて、毎年、猛暑日がふえていく日本の夏ですが、
おしゃれがどうだこうだ言う前に、この暑さから身を守らなければなりません。
暑さから身を守るためには、以下のようなことが重要になります。

まず、涼しい素材の服を選ぶこと。
汗を吸い取り、しかもすぐ蒸発させることができる代表的な素材は麻です。
続いて麻と綿の混紡、また、暑さを防ぐために開発された機能性のある化学繊維も涼しいです。
一方、真夏にお勧めできないのはごく一般的なポリエステルやアクリル。
ポリエステルはシフォン素材などもあり、透けているため見た目は涼しげですが、
決して涼しくはありませんので、気をつけるべき素材です。
レーヨンはポリエステルほど暑くはありませんが、
水に弱い素材ですので、大量に汗をかく夏向きではありません。
レーヨンの原料は紙と同じパルプですので、水に濡れると、
紙のように固くなり、また縮みも見られます。ですから真夏のレーヨンは避けたほうが無難です。
最近、少しずつ見られるようになったリヨセルですが、
リヨセルは吸湿性、速乾性があるため、真夏でも着られます。
いいとも悪いとも言えないのがシルクとウール。
シルクは涼しいのですが、汗じみに弱いという欠点があります。
大量に汗をかかない室内着としては、真夏のシルクは悪くありません。
ウールも汗を吸収し、熱を遮断する性質があるので、夏は案外涼しいです。
ただ、これもヨーロッパの夏にはいいと思いますが、
今のような日本の高温多湿の地域には向かないでしょう。

次に、体にぴったりフィットするものではなく、
風をはらむようなシルエットの服を着ること。
体と衣服の間に空気が通り抜けるようなシルエットでなければ、
暑さは防げません。
真夏はスキニー・ジーンズよりも、ふわっとしたシルエットのスカートのほうが涼しいです。

最後に露出との関係です。
室内や日陰にいるとき、肌の露出度は高いほうが涼しく感じられますが、
日差しが強い場合は、逆に肌を露出していると暑さが増します。
気温が高く、日差しが強い日は、
露出部分を少なくし、上記のような素材で風をはらむシルエットのものを着たほうが、暑さをしのぐことができます。
これは砂漠など、日差しの強い地方の衣装を思い浮かべればわかることですが、
いくら暑くても、日差しが強い場合は体を露出しないほうがよいのです。
また、頭に直射日光を当てるよりも、帽子をかぶったほうが暑さ対策になります。

以上のことを踏まえると、
ポリエステルのぴったりしたシルエットのタンクトップに、
コットンとポリエステル混紡のホットパンツ姿、サングラスよりも、
麻100パーセントのゆったりしたシルエットの丈の長いワンピースに帽子をかぶるほうが、真夏の暑さは防げるということになります。

これらをクリアした時点で、初めてその上でおしゃれに見えるにはどうしたらいいか、先に進むことができます。

真夏といっても、シーンはいろいろです。
海なのか、山なのか、都会なのか、高原のリゾートホテルなのか、
その背景によって、似合うおしゃれは変わってきますが、
しかし、どこにいたとしても配慮すべきなのは、涼しげに見せるということでしょう。
真っ黒よりも、ブルーからグレーのグラデーションのほうが涼しげですし、
ペールトーンと言われるシャーベットのような色合いも夏向きです。
もちろん白は夏に外せない色です。

そのほかにできるのは、透明感のあるアクセサリー。
クリアクリスタルやダイヤモンドなど、氷を想像させる透明な石、
クールなシルバーなど、冷たさを連想させる素材は、それだけで涼しく見えます。

また、外から室内に入ったとき、
羽織っていたものを脱いだときに見える、
日焼けしていない白い肌も、
あたかもそこだけが雪のように白く、冷たさを感じます。

「涼しげ」というのは、実際に涼しいかどうかではなく、
とにかく目に涼しさ、冷たさを与えられるかどうかの問題です。
真夏は、氷やシャーベットやゼリーを思い出させるような、
そんな素材と色合いを、目も欲しがっています。
ですから、私たちはそれを与えればいいのです。
そう考えると、涼しげに見える方法は、ほかにもあります。
逆に避けたほうがいい、暑苦しく見える色や素材もわかってくると思います。

しかしそれでもやはり、猛暑の夏のおしゃれは二の次の問題です。
とにかく自分が倒れないのが一番大事。
そのためには、ちょっとぐらい変な格好をしたところで、いいではありませんか。
暑さで倒れそうな真夏と、寒さで凍え死にそうな真冬は、
おしゃれのことはちょっと脇に置いておいて、
暑さ寒さ対策にいそしみましょう。
それは免罪符です。
誰からも非難されることはありません。
生きていないことには、おしゃれもできません。
おしゃれより、自分の命を守ることのほうがよほど大事です。


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2014年7月21日月曜日

パートナーの衣装

今日、取り上げたいのはパートナーの衣装についてです。
芝居や映画では、衣装デザイナーがいて、カップルで登場する場合、
2人が一緒に並んで完璧に見えるような衣装を考え、用意します。
私たちは、いささかの疑いもなくその2人を見ます。
それは、いい趣味の場合も、悪い趣味の場合も、
ともにお似合いなカップルになっているからです。

今回、特に書きたいのは、服装についての主導権を握っている相手についです。
ですから、多くの場合、恋人はそれに当たらないでしょう。
結婚する以前のパートナーは、それぞれ自分で衣装を何らかの方法で、
それは自分で選んだものではないとしても、調達してきているはずです。
しかし、日本では、多くの場合、結婚して数年たつと、
妻が夫の服装についての主導権を持ち、
すべてそろえるまではいかなくても、かなりの部分、選択したり、
買ったりするのではないかと思います。

ですから今回は、服装について自立して自分で選択し、購買できるパートナーの方々の話は除きます。
それができる方々は、それぞれが自分の流儀でやればよいと思います。
問題なのは、それができないパートナー、ほとんどの場合は夫の服装についてです。

映画やドラマを見ていて、ご夫婦が一緒に登場してきたシーンで、
夫の服装に唖然とした記憶は、ほぼないと思います。
しかし、実生活ではどうでしょうか。
いつもきれいにしている奥様から、
旦那様の素敵なお話をいろいろ聞かされていて、
期待に胸を膨らませて、そのご夫婦が2人そろって登場してきた場面に出くわしたとき、
一瞬、言葉を失うような、
確実に何かが違うと悟るような、
視線の置きどころに困り、
足元の地面が崩れ落ち、
もはや、この奥様は信用できないとまで思い至るような、
そんな旦那様の服装を目撃したことはないでしょうか。

もちろん全員ではありません。
素敵な奥様にふさわしい、素敵なスタイルの旦那様も多くいらっしゃいます。
しかし、期待された像と実像とのギャップがあまりに激しく、
取り繕う言葉も出ない、そんな場面は多くはないでしょうか。

残念ながら、日本の多くの男性は、どのような場面でどのような服装をしたらいいか、
またワードローブはどのように構築したらいいかの知識を持っていません。
完璧に把握しているのは仕事場での服装についてのみです。
服が好きで、知識があり、よく考えているのは、まだまだ少数派です。
(だから少数派の皆さんは大丈夫です。問題ありません)

なぜここでポロシャツなの?
なぜ白いTシャツにゴールド喜平チェーンのネックレス?
パンツの丈が七分なのはどうして?
なぜこの場にそのスニーカー?
なぜシアーな靴下?
なぜジャージ?
数え上げたらきりがありませんが、
多くのへんてこりんなコーディネートをよく見ます。

ご夫婦が二人別々に行動しているときは、それでもほとんど気になりません。
また、二人が同じレベルである場合も、特別おかしいとも思いません。
しかし、明らかに服装が不釣り合いな2人が一緒にいるとき、
そのおかしさが目立ちます。

日本の男性には、仕事場、そしてホテルやゴルフ場以外など特殊なエリア以外には、
特にカジュアルな服装について、明確なルールがありません。
現在は、明確なルールがない上に、服装のカジュアル化が重なって、
より一層、混沌とした状態です。

このへんてこりんなスタイルの原因ですが、
多くの場合、行きすぎたカジュアルであり、家の中の延長が外に持ち出されたからです。
カジュアルな服装、たとえばTシャツやジャージは確かに楽なのですが、
決して美しくは見えません。

日本の男性がおしゃれでないとは、決して思いません。
歴史的に考えても、つまり着物の時代から考えても、日本の男性のおしゃれレベルは相当なものです。
着物の柄、帯との組み合わせ、裏の柄に至るまで、
世界屈指のしゃれものです。
また、着物の時代が終わった戦後すぐでも、
たとえば、黒澤明の映画や小津安二郎の映画を見れば、
おしゃれなスーツ姿の男性がぞろぞろ出てきます。
しかしはっきりとした違いは、彼らは決してカジュアルな姿ではないということです。

もし妻の側が夫の服を選んでいるとするならば、
気をつけるのはただ1つ、行きすぎたカジュアルにならないようにすること、です。
行きすぎたカジュアルとは何なのか、
それは部屋着の延長であり、楽であることの追求です。
もっと端的に言えば、楽であるとはジャージである、ということです。

たとえば、カットソーと呼ばれる綿ジャージのTシャツは、もとは肌着です。
スウェットパンツもスポーツウエアです。
1つのスタイルからジャージを減らせば減らすほど、カジュアルから遠くなります。
ジーンズにあわせていたTシャツを普通の木綿のシャツに変えただけで、
印象はがらっと変わります。
ジャージを駆逐していけば、それだけで小奇麗になります。

小津安二郎の映画に出てくる笠智衆がいつでも美しさを崩さないのは、
決してTシャツを含むジャージ素材のものを着てあらわれないからです。
着ているのはスーツか、シャツとズボンか、または着物です。
ニットで許されるのは冬のセーターとマフラーぐらい。
そのほかは、肌着に近い素材のもので表には出ません。
色の組み合わせとか、バッグや靴、アクセサリーなどは、
あくまでその次の段階の問題です。

もちろん余裕ができたなら、
二人で並んだとき、つり合いのとれるスタイルになるように考えるといいでしょう。
あまりにも不釣り合いであり、自分の信用さえ疑われるようでは、
それは問題です。
とりあえず、足を引っ張らない程度まで、引き上げてください。

日本は、カップルで出かけたり、行動することが少ない社会です。
二人でパーティーに出たり、コンサートに行くなどということも少ないでしょう。
夫婦が2人でいるところを見られるのが大型スーパーばかりというのは寂しすぎますし、
それでは服装の文化は育ちません。
放っておけば、惰性へ流れます。
楽なほうへ、楽なほうへ向かいます。
夫婦間で服装のギャップも大きくなります。
楽にいってしまったものを戻すのは難儀です。
そうならないためにも、今のうち、手を打っておきましょう。

どんなに妻は妻、夫は夫、違う個人ですと言い張っても、
多くの人には二人は一緒に見えています。
「お似合いのカップルね」という言葉が、
賛辞なのか、皮肉なのか、
二人並んで鏡を見たなら、すぐさまわかるでしょう。
お似合いの二人しか、長くは一緒にいられないものです。
願わくば、そのお似合いが素敵なカップルでありますように。


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2014年7月14日月曜日

スタイルとキャラクター

おしゃれの基本がわかって、
ある程度のことはできるようになったら、
次の段階はスタイルの確立です。
では、そのスタイルは何に基づいて確立すればよいのでしょうか。

ここで思いだしてほしいのは、
ファッション・アイコンと呼ばれている人たちのことです。
最近だったら、ケイト・モスにアレクサ・チャン、
少し前だったら、ジェーン・バーキン。
また、もっと古くはココ・シャネルなど。
もちろんほかにもたくさんいますが、
このようなファッション・アイコン、つまりおしゃれのシンボル的な存在の人たちには共通項があります。
それは、スタイルとそのキャラクターが一致しているということです。

たとえば、ケイト・モスもアレクサ・チャンも、ともにモデルですが、
私たちが思いだす彼女たちのスタイルは、
モデルとしてポーズをとった雑誌のグラビアに見られるスタイルではなく、
プライベートの着こなしのスナップの中での彼女たちの姿です。
スタイリングの完成度という点では、
雑誌の完璧なスタイルのほうがプライベートのスタイルより上でしょう。
しかし、私たちが常に知りたいと思うのは、
決して雑誌のスタイリングではなく、
彼女たちが自分のために、自分で作ったスタイルです。
なぜならそこには、ケイト・モスならケイト・モスの、
アレクサ・チャンならアレクサ・チャンのキャラクターがあらわれているからです。
私たちが興味を持つのは、彼女たちの確立されたスタイルだけではなく、
その完成されたキャラクターです。
そして、そのキャラクターのぶれのなさが、より一層、彼女たちをおしゃれに見せます。
このことを理解していないと、スタイルは全く意味のないものになります。

雑誌で提案されている完璧なスタイルをそのまますべてそろえて着たら、
それはそれなりにおしゃれです。
ブランドが発表した新しいスタイルを、一式そろえて着たら、
それもそれなりにおしゃれでしょう。
しかし、それだけでは何かが足りないと誰もが感じるはずです。
おしゃれだけれども足りないもの、
まさにそれがキャラクターです。

多くのデザイナーたちはそのことを知っていますから、
いつも自分のスタイルを崩しません。
完璧なコーディネイトよりも、
一番の新しさよりも、
ましてや値段の高さよりも、
その人のキャラクターの輪郭がはっきりあり、
それが誰に対しても印象的なものならば、
そちらのほうがおしゃれに見えるのです。

これは、アニメなどで使われる「キャラが立つ」ということと、
同じことです。
キャラが立つ、つまりその人のオリジナリティがはっきりして、
その他大勢にならない個性があること、
そしてそれが魅力的であること。
それがなければ、どんなに完璧なコーディネイトもおしゃれには見えません。

その人のキャラクターを際立たせるためには、
完璧な服と靴とバッグを用意しただけでは足りません。
髪形、メイク、言葉使い、生活、考え方など、
あらゆるものを含めてキャラクターは立ってきます。
それはころころ変わるようなものでもだめだし、
誰かと同じでもいけません。
逆に、キャラクターがはっきりしているのなら、
完璧なコーディネイトも、高価な靴もバッグもいりません。

どんな生活をしていて、どんなものを食べているか、
どんな音楽を聞いて、何を読んでいるか、
表情やしぐさ、
優しいか、優しくないか、
自分のことしか考えていないのか、そうではないのか、
どんな言葉で語るのか、
それらを含めて、私たちはキャラクターを評価します。

スタイルはキャラクターのあとにくるものです。
キャラクターあってのスタイルです。
私たちが憧れるのは、そのスタイルよりも、その人のキャラクターなのです。
どんなに高価なブランド物で上から下まで完璧なコーディネイトに身を包んでいたとしても、
決して憧れの対象にならない人がいるのはそのためです。

現在のジェーン・バーキンは、エルメスの「バーキン」を除けば、
決して高価なブランドに身を固めるでもなく、
完璧な髪形とメイクを施しているわけでもありません。
それでも彼女が憧れの対象になるのは、
311の震災の際にいち早くチャリティー・コンサートをする行動力と心を持った、その彼女のキャラクターのためです。

キャラクターとは関係のないところのスタイルは虚しいです。
ましてや、完璧なスタイルなど、何の意味もなしません。
反面教師はたくさんいます。
そうならないように気をつけましょう。
キャラクターも含めてのおしゃれなのだと、肝に銘じてください。
それ以外のものは、表層的な差異です。
魅力も影響力もありません。

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2014年7月7日月曜日

洋服のお直しについて

現在、ほとんどの人が既製服、
つまり、フランス語でprêt-à-porter、英語でready to wearの服を着ていることと思います。
そうなると、必ずしもその服が自分のサイズにぴったりであるとは限りません。
どちらかというと、合っていない場合のほうが多いでしょう。
現在、日本では、JISが定めたサイズ表示が一般的で、
たとえば、9ARなどと表示されています。
この場合、9号サイズのA体型(標準)、Rは身長が普通であるという意味です。
主なサイズは以下のとおりです。
9AR  身長158センチ、バスト83センチ、ヒップ91センチ、
11AR 身長158センチ、バスト86センチ、ヒップ93センチ、
13AR 身長158センチ、バスト89センチ、ヒップ95センチです。
身長は変わらず、バストが3センチ、ヒップが2センチ刻みで大きくなっていきます。
このサイズは婦人服全体に適応されるもので、
年代についての特別な考慮はありません。
ですから、年齢が上がるに従ってあらわれる体型変化に対応したブランドなどは、
このサイズを基準にして、バスト、ヒップ以外の寸法を変更していると思われます。
しかし、その変更の仕方はメーカー、ブランドでさまざまなので、
統一されたものはありません。

一方、外国のブランドはまたそれぞれの基準で服を作っています。
国によっても違いますが、外国の場合、シーズンによってもかなり差があります。
同じ36号サイズでも、ブランドによって、または同じブランドでもシーズンによって、
違うということはよくあります。
ただし、外国のものは日本標準体型とはかなり違ったバランスで作られていると思いますから、
日本メーカーとその他海外ブランドでは、サイズはまったく別物と考えていいでしょう。

これらさまざまなサイズ標準があるわけですが、
それらに体型がぴったりいつも合えばいいのですが、
そういうわけにはいきません。
となると、お直しが必要になってきます。

お直しで一番多いのは、パンツとスカートの裾丈でしょう。
パンツの場合はたいがい長目にできていますので、それをカットすることは可能です。
しかし、カットではなく、新たに裾を出すとなると、
折り返されている縫い代分しか出すことはできませんので、
出せたとしてもせいぜい1~1.5センチが限界でしょう。
パンツとスカートのお直しは、やろうと思えば自分でできます。
特にウールのパンツの場合は、ミシン縫いしなくても、裾をカットし、
アイロンで裾を折り直してまつり縫いすれば、それで問題ありません。
ただし、ジーンズの場合は、特殊なミシンと、それに合った糸が必要になりますので、
自分で裾上げをするのは難しいです。
スカートもパンツも、丈を決める場合は、必ずそれに合わせる高さのヒールの靴をはいて決定します。
特にパンツの場合は、フラット・シューズとヒールのある靴とでは、
ぴったりくるパンツ丈が変わってきますので、注意が必要です。
スカートの場合も、ひざ上のミニ丈を除いては、靴のヒールの高さによって、
似合うスカート丈は変わってきますので、必ず靴をはいた状態で裾丈を決めましょう。
 
そのほか考えられるのは、袖の丈詰めとウエストの大きさのお直し。
袖については、コートやジャケットで、袖口に複雑なあきがない場合は、こちらも可能です。
ただし、こちらは素人が直すには、少し難しいでしょう。
単純な一重の筒型のような袖なら可能かもしれませんが、
裏つきや、袖口にあきがある場合など、素人には難しすぎると思います。
また、スカートやパンツのウエストのお直しも、
一度、ベルト部分をほどかなければなりませんので、素人では難しいでしょう。

さて、お直しとはいっても、できないお直しもあります。
それは服の構造に関するものです。
構造を変更するお直しは不可能です。
根本的な構造をいじることはできません。

服の構造部分とは、トップスでは肩線、
パンツでは股上です。
スカートには、動かせないような構造部分はありません。
パンツの股上をいじると、パンツの構造は歪みます。ですから変えることはできません。
しかし、パンツの股上は、ファスナーがあったり、縫い代幅が狭いせいで、
ほとんど、それをいじろうとする人はいないだろうと思いますので、
問題にはなりません。
問題なのは、トップスです。

ほとんどのトップスの場合、肩線をいじることはできません。
(例外はあります。たとえばノースリーブで襟もない一重のブラウスや、
やはり襟のないラグランスリーブのブラウスのラグランのカーブをいじるなど)
肩線を変えるとすると、それに伴って、
襟ぐりと襟、袖ぐりと袖などが一緒に変更されることになります。
肩線、襟ぐり、袖ぐりが変わるということは、服そのものがもう違うものになるということです。

たとえば、以前流行った分厚い肩パッド入りのジャケットの肩パッドを取り除いて、
その分、浮いてしまった肩線を変更するということは、
服そのものを破壊することになります。
もちろん、やってできないことはありません。
できないことはありませんが、それをやった時点で、
もうそれは元の服とは違うものになり、服としての美しさは消えているからでしょう。
なぜなら、肩線をいじったということは、
そのデザインの意図を変えたということにほかならないからです。

コート、ジャケット、シャツ、ブラウス、ワンピースなどは、
肩がすべてのパーツを支えています。
厳密に言うと、肩ではなく、肩線の首側の支点によりすべてのバランスがとられています。
そこは、いわば服の肝とも言えるところです。
そこをいじってすべてのバランスを変えるなら、
もうその時点でそのデザインは終わりです。
それはお直しの域を出て、作り直しとなります。

逆に言えば、その肩線を維持するならば、
そのほかの部分は多少いじったところで、大きな問題にはなりません。
バストが足りない場合、ダーツを1つほどいてしまったとしても、
全体の構造には影響しません。

もしその服のデザインの意図を残したい、尊重した上で直したいのなら、
決して肩線をいじってはいけません。
では、肩線を変えたい場合、どうしたらよいのか。
それなら、最初からほどいて、すべてをやり直すべきです。
すべてをほどき、新しいパターンを上から置いて、裁断し直し、
新しく縫い合わせるならば、肩線は変えられます。
しかしそれをした時点で、もうそれは以前の服ではなく、
全く違う、新しい意図を持ったデザインとなります。
前のデザインは死に、
その上に、新たに意図を持った、
前とは違うデザインがあらわれます。

肩、つまりその構造さえいじらなければ、あとは割と自由に変更可能。
けれども、肩を変えるなら、そのデザインは終わり。
私のお勧めはデザインを尊重するか、
さもなくば、新たなデザインを新たなパターン、新たな素材で作ることです。
前の構造の上に無理やり新しい意図をのっけても、
うまくいきません。
それ以外の部分はどうぞご自由にお直ししてください。
ロングスカートをミニにしても、
長袖ブラウスを半袖にしても、
大きすぎるウエストを少し詰めても、
意図は変わりません。
デザインにも変えていいところといけないところがある。
覚えておくべきルールはこれだけです。 



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