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2012年1月30日月曜日

完璧だからって、おしゃれに見えるわけではない



それは寒い冬の平日の昼下がり。
小田急江ノ島線の上り電車で見かけた方です。
年のころは50代後半といったところでしょうか。
黒カシミアの大判ストールに、紺色の、これもカシミアのダブルブレストのコート。
前を開けているので中に何を着ているかわかります。
黒いサージのタイトスカートに、黒カシミアのタートルネック。
大粒のパールのネックレス、ピアス、そして、これもまた大粒のパールの指輪。
鞄はエルメスの黒いバーキン。
足もとは、黒いシアーのストッキングに、黒のマノロ・ブラニクのピンヒールのパンプス。
腕時計はRADOのクポール・ジュビリー。
頭にヘアバンドのようにかけている眼鏡はグッチ。
ざっとこんな感じです。
コート以外はすべて黒。スカートを除いてはすべてカシミア。
どこに行っても恥ずかしくない、完璧なルックスです。
完璧なルックスですが、別にそれがおしゃれに見えるというわけではございません。

なぜか。
そこには、その人らしさやキャラクターを表現するものが、1つも入っていないからです。

例えば、映画を作るとして、監督が衣装デザイナーやスタイリストに女社長の役の人の衣装を用意するように言ったとしましょう。
もし、その女社長が単なる端役で、セリフもないような役でしたら、その衣装でOKです。
けれども、もしそれが主役の女社長の衣装だとしたら、それではだめです。
なぜなら、それではその主役のキャラクターが全く表現されていないからです。
確かに、これだけ身につければ、とある女社長である、ということはわかります。
けれども、その役のキャラクター、例えば、どんなところに住んでいて、何が好きで、どんな仕事で、趣味は何で、どんな性格か、その衣装からは何も伝わってきません。

前出の方がもしどこかに自分の服とアクセサリー、バッグ、靴を並べておいておいたとしても、他人からは、あ、それは誰それさんのね、ということは判断できないでしょう。
その服装がこちらに伝えてくるのは、ある程度お金のある、きちんとした身なりをした女性というだけで、それ以外のものは、その身につけているもののブランド名を除いては、何もないからです。
その証拠に、今、私はその方のバッグの大きさや金色の金具の光具合は思い出せますが、その方の顔は全く思い出せません。
その方が私に伝えてきたのは、持っているもののブランド名ばかりで、その人自身のキャラクターではないからです。
おしゃれの目利きたちは、こういう格好の人のことを、おしゃれだわ、とは見ないのです。
(もちろん、この方も、おしゃれに見せようなんて思ってないかもしれませんが)

では、どうしたらよいでしょうか。
それは自分らしさを表現するものを何か付け加えることです。
誰もが見て、あ、これって、誰それさんだよねとわかるものを身につけるのです。
それは別にブランド物である必要など、まったくありません。
かえって、それは邪魔になります。
またそれはアクセサリーかもしれませんし、色あいかもしれません。
いろいろな可能性が考えられます。

例えば、私が見たこの方が自分らしさを表現するために何を付け加えたらいいかアドバイスされたとしたら、こんなふうに提案します。
まあ、これだけいろいろブランド物をそろえる財力がおありでしたら、
(それでもこの年代の和服の奥様に比べたら、全然大したことありません)
コートをオーダーメイドにして、裏地を自分の好きなものにしてみる。
それこそ、ひょう柄が好きならひょう柄に、または自分の好きなストライプや花柄など、何でも、これはほかにないね、というような組み合わせにする。
バーキンにその人らしいチャームをつける。それはお孫さんからいただいた、きらきらのキティちゃんかもしれないし、若いアーティストの手作りの花のコサージュかもしれない。
仕事では邪魔になると言うのなら、仕事の場になったら、それは取り外す。
腕時計と一緒にお守りのようなブレスを重ねづけする。それは全体のバランスを崩す、わざとラフなもの。(間違っても、パワーストーンの数珠ブレスはだめです)。
どこでもありそうなパールの指輪をやめて、世界に1つしかない、デザインされた大ぶりの石のついた指輪にする。
などなど、こんな感じです。

とにかくそれは、自分の思い入れのあるものでなければなりません。
なくしてしまったら、同じのが売ってるから買えばいいわ、というような品物では、それがいくら高価なものだとしても、だめなのです。

あなたのかわりはほかにはいません。
セリフのない女社長Aみたいな服装をする必要なんて、まったくありません。
だって、すべてこの世は舞台で、みな主人公だからです。

それに必要なのはお金ではありません。
工夫と、それを実現する努力と、そして自分のことが大好き、という気持ちだけです。
自分のことが大好きだったら、自分らしいものは何か、きっとわかるはずです。
おしゃれな人とは、それを表現している人のことなのです。