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2017年8月7日月曜日

コルセットと細いウエスト

 (Manet, Edouard - Olympia, 1863)

西洋の女性の衣服の歴史を振り返ってみたときに、
外せないのはコルセットの存在です。
特にルネッサンス期以降、スカートのボリュームが大きくなるにつれて、
胸の下からウエストにかけてコルセットと呼ばれる胴着を装着し、
ウエストとヒップの差を強調したシルエットが主流となっていきます。

その後、コルセット着用の流れはナポレオン第一帝政時代、ナポレオンの妻であったジョセフィーヌが着用したことで有名なエンパイアドレスやイギリスのジョージアンスタイルのドレスなど、
一時途切れ、その後、復活しますが、1906年にポール・ポワレがコルセットなしのドレスを発表をもって終了したと言われています。

コルセット着用の理由は、
一人で着用することが難しいことから裕福であることを示すため、
胸とヒップを強調することによる男性へのアピールのため、
そうではなく、女性みずからが好んでウエストを強調するためなどと、
諸説ありますが、はっきりしたことはわかっていないようです。

ポール・ポワレによってストレートなラインのドレスが発表された後、
ウエストの強調、もしくはウエストマークはいったんなくなったかに見えた女性の衣服ですが、
決してそんなことはありませんでした。
現在に至るまで、細いウエストと膨らんだスカートや、
ビスチエと言われる胸から下にかけての胴着など、
胸から下の胸郭からウエストの強調が消えることはありません。

細い胸郭からウエストは何をあらわすのでしょうか。
そのうちの1つは女性らしさです。
胸から腰にかけて、どちらかというと寸胴の男性に比べて、
女性のウエストは、太ってさえいなければ、細いものです。
それは男性にはない特徴として、女性らしさをあらわします。
次に考えられるのは、若さの象徴としてのウエストの細さです。
男性よりはウエストが細い女性と言えども、年をとってくると、
どうしてもウエストの周囲に肉がつき、その細さは失われていきます。
ウエストが細いということは、若い女性の象徴でもあるのです。

細いウエストを持ち、若く、女性らしいということは、
太いウエストの女性よりもよりエロチックです。
確かに西洋の絵画に見られるヴィーナスのウエストは決して細くはありません。
ティッツィア―ノの「ウルビーノのヴィーナス」のウエストも、
ボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」のヴィーナスのウエストも、
ルーベンスの「鏡を見るヴィーナス」に見られるヴィーナスのウエストも、
ふくよかであり、豊穣ではありますが、エロチックではありません。

一方、マネが描いた「オランピア」に見られるウエストの細い裸体の女性はエロチックです。
オランピアは娼婦です。
ヴィーナスには「エロス」という子供がいますが、
オランピアには子供はいないでしょう。
しかし、「エロス」という子供のいないオランピアのほうが、
皮肉なことにエロチックです。
それはその細いウエストゆえです。
それが示すのは未婚であること、そして何よりも恋愛の可能性です。

女性はそのことを無意識のうちに知っているのでしょうか。
コルセットが必要でなくなった現代においても、決して細いウエストを捨てたりはしませんでした。
細いウエストを見せるつけるために女性たちがやるのは、
ウエストにベルトをする、または胸の下から細いウエストまでを見せることです。

まずはベルトについて。
ベルトは通常、スカートまたはパンツがウエストからずり落ちないためにするものですが、
女性の衣服の場合、それとは別の用途で、
つまり、ずり落ちるものなど何もないのに、一種の装飾としてベルトを用います。
ブラウスにも、ワンピースにも、コートにも、ジャケットにも、
太いベルトでも、細いベルトでも、ウエストマークをするためにベルトをします。
このとき女性たちは、コルセットの名残としてベルトを使います。
これは誰にでも取り入れることができる、手っ取り早い女性らしさと若さの表現です。

そしてもっと進んだ形でウエストの細さを強調するのが、
ミドリフ丈のトップスの着用による、胸下からウエストにかけて露出させるスタイルです。
(ミドリフとは横隔膜という意味)
モデルたちがこの部分を露出するスタイルをしているのをよく見かけます。
彼女たちはもはやコルセットなど必要としないのです。
ワークアウトによって手に入れた、コルセットなしの細いウエストを見せることによって
コルセットと同じ効果、すなわち女性らしさ、若さ、そしてエロチックさを彼女たちは見せつけます。
それとなく、涼しげに。

コルセットが消えた現在においても、
女性は決して細いウエストを手放してはいません。
細いウエストに無頓着になるということは、
女らしさと若々しさ、そして恋愛の可能性を捨てたということを意味します。
そんなことは意図していないとしても、
私たちはそう読みとります。

衣装はテキストの一形態です。
それは読みとられ、解釈されます。
女らしさ、若さ、そして恋愛の可能性を表現したいのなら、
ウエストの細さを作ることです。
それはベルトを使っても、ワークアウトで肉体を細くしても、
どちらでも構いません。

それを作ったなら、人々はあなたというテキストを読みとくでしょう。
あなたが女らしく、若々しい存在であると。
そして何よりも、あなたは恋愛の対象者となり得ると。
望むのなら、あなたはそれを意図して、作ることができるでしょう。