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2012年4月23日月曜日

みんな、あわてないで、服は余っているよ

成熟した資本主義社会においては、物はいつも過剰に生産されています。
中でも、洋服はもっとも余剰の多い商品の1つです。
この傾向は年々進み、私がアパレル業界にいた90年代より現在は、何倍もの服が市場に出回っています。
それと同時に、アパレル業界がメインターゲットとしている20代から40代の人口は、もう増えていません。特に若者は年々減少しているので、需要と供給のバランスが崩れています。

売るほうの側は何とか商品を売ろうとして、いろいろ戦略を立てます。
1つは、流行のサイクルを早めて、すぐに流行遅れにすること、
もう1つは、生産枚数を極端に少なくして(あるいはそう見せかけて)、買う側の飢餓感をあおることです。

先日も、H&Mでマルニの限定コレクションが発売されましたが、日本の店舗では、どこも午前中ですべて売り切るほどの人気だったそうです。
私はこのことを知って、少し首をかしげました。
マルニは、アウトレットに行けばいつも大量に売れ残っているブランドですし、会員制のセールサイトのギルトなどでもよく出品されます。
また、昔、服飾評論家の深井晃子さんが「マルニの服は素晴らしい。ただ1つの欠点は、デザイナーのコンスエロ・カスティリオーニ以外、似合う人が少ないことだ」とおっしゃっていたように、デザインや品質はすばらしいのですが、着こなすのが非常に難しい服です。誰でも、どこでもというわけにはいかない服なのです。
それが午前中ですべて売り切れるほど人気とは、一体どういうことだろう、と思いました。

こうなったのは、1つは売る側のプロモーションのうまさです。
ソフィア・コッポラが監督したCMは彼女の感性とすごくマッチして、夢見るように素敵でした。確かにあれを見れば、何だか欲しくなります。
それともう一つは、宣伝の規模と反比例する、生産量の少なさが原因でしょう。
(といっても、海外ではもうセールで投げ売りされているらしいですが)
あれだけ広告を打っておきながら、お店に行くとほんの少ししか売っていない。急いで買わないとなくなってしまうという心理を利用して、すべて売り切ったのだと思います。

けれども、ちょっと待ってください。
「おしゃれのルール」の部分に書きましたが、ファッションは1つの情報です。
私も先日、例のH&Mのマルニのドレスを着ている女性を見かけましたが、見た瞬間、
あ、あれはこの間のH&Mで売り出したマルニの●●円のドレスね、ふーんと、ぱっと頭にその情報が流れてきました。もしこのドレスを来年も着たら、あら、あのときのドレス、まだ着ているのね、となってしまいます。

こうなってしまうと、そのドレスはその人に似合うかとか、そのドレス自体が素敵であるかとかいうより、単なる過去のデータとなってしまい、それは着る人にとって、必ずしもプラスの印象ではなくなります。
自分自身の表現ための服とは、できるだけ、この情報から遠く離れたほうがいいのです。
なぜなら、あなたはデータを運ぶ媒体ではないからです。

相手は心理作戦を使ってきますから、こちらもナイーブな消費者ではいられません。
まんまとのせられて買ってしまう前に、一呼吸置いて、冷静になりましょう。
本当に自分が必要かどうか、似合うかどうか、考える時間はあるはずです。

残念ながら、この世の中には、あなたをなんとかだまそうとする人たちが存在します。
甘くたくみな言葉づかいで、まんまとあなたを自分の思い通りにしようとします。
でも、誰かの思い通りにばかりなっていたら、あなたが主人公の舞台は台無しです。
そういう人たちは、必ず最後に逃げるのです。

本当は余っています。
選ぶ権利は、いつでもあなたにあるのです。