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2015年7月1日水曜日

洋服の色合わせ その3

さて、色そのものの法則、
そして洋服という素材とシルエットにのったときの色について述べてきました。
次に、それが実際に人が、どこかの場で着たときの見え方についてです。

周知のとおり、色はその光によって見え方が変わってきます。
主には太陽光線、人工光線の2種類の光源があります。
また、太陽光であっても、緯度経度によって、
人工光線であれば、その光源の性質によって、色の見え方は変わってきます。

容易に想像できるのは、
ハワイで見る色の見え方と東京で見る色の見え方の違いです。
赤道に近く、太陽の光が頭上から降り注ぐハワイと、
それより北極側に位置する東京では、当然のことながら、
光の見え方は違います。
そしてその東京においてさえ、春分点、秋分点、冬至、夏至のころでは、
太陽の傾きがかわり、光線は変わります。
そのつど、同一の色でも同じようには見えません。

一方、人工光線では、
蛍光灯、LED、白熱灯によって、色の見え方が変わってきます。
太陽光下での色の見え方があくまで基準で、
それに対して人工光線がどのように見えるかをあらわす言葉が演色性です。
演色性が高いほど、太陽光に近く、低いほど、太陽光下とは違った見え方をします。
家庭やオフィスなどで多く使われる蛍光灯は、
この演色性が低く、太陽光線下で見たときと、同じ色の見え方はしません。
色のスペクトル分布がまばらなため、拾う色と拾わない色があらわれます。
蛍光灯下での食品が著しくまずそうに見えるのはそのためです。

また、余り語られてはいないことですが、
目の色によっても、色の見え方は変わります。
フィルムの現像が当たり前の時代、コダックを使うか、富士フィルムを使うかで、
上がりの写真は色が違って見えました。
あの差は日本人の目の色の見え方の差と、西洋人の目の色の見え方の差をあらわしています。
つまり、同じ人間という種族でも、人それぞれ色の見え方は違うのです。

ここからわかることは、色とは絶対的な現象ではない、ということです。
光源、目の色、太陽の緯度経度、時間、季節、環境によって、
見え方は変わる、それが色の特徴です。
色とは関係によって変わる、恣意的な現象です。

洋服の色合わせについて考えるとき、もっとも重要なことは、
関係によって変わる色の恣意性をどこまで把握するか、
どこまで自分を客観視できるか、ということです。
自分にとってふさわしい色とは、決してとある一室の、誰か1人が、
ひとつの光源において見た、
その季節、その時間の肌の色によって決められるものではありません。
それは全くもって客観的ではないのです。
ですから、私たちはその「誰か1人」よりもより大きな視点で、
客観的に色を判断する必要があります。

蛍光灯の下ではえる色、
湘南の海辺で太陽の照り返しを受けて似合う色、
都会の劇場のロビーの薄暗い照明の下、
シャンパングラス片手に誰かと談笑するときに引き立つ色、
その色がのるテクスチャーとシルエット、
そしてそれを着る人の動き、
それがしめやかなものなのか、激しいダンスのようなものなのか。
そして季節による変化、
子供の肌と大人の肌での光の反射の仕方の違い。

暖炉の前、焔に照り返されたときのニットの色合い。
オペラ座のバルコニー席で、絹ずれの音とともに翻る赤い絹のドレスの裾の色、
そこからのぞく黒いエナメルのパンプスの輝き。
鉛色の空、寒い冬の朝のオフホワイトのダッフルコートが、
ダークスーツの集団の中、光っている様子。
立春が過ぎて、太陽光線の傾きが穏やかになり、
春霞の中、明るさと暖かさをもたらす、やわらかなカシミアニットのピンク。
バラ園のバラと緑に似合う、花柄のシャツやドレス。
真夏の海辺、焼けた肌に似合う白、青、赤のトリコロール。
紅葉の森を散歩するときの、オイルドコットンのカーキなどなど。

もっとも美しく、そしておしゃれに見える洋服の色合わせは、
基本の色のルールをおさえた上で、
どれだけその人がそのシーンにふさわしいかで決まります。
それは自分の顔と洋服を鏡の前であわせただけではわかりません。

それがわかるようになるためには、
そのシーンにおいて自分がどんな見え方をしているのか、
常に気を配り、学習していくこと必要です。
海に行かなければ、海の光はわかりません。
劇場に行かなければ、劇場の照明はわかりません。
森に行かなければ、木漏れ日を知らず、
雪原に立たなければ、白銀の世界はわかりません。
すべての経験、すべての行動のたびに、光について学習し、
その都度、色の見え方を確認します。
それは訓練です。
やらないことには、上達はしません。
誰か素敵な色合いの人がいたら、どこがよいと思ったのか観察し、自分に取り入れ、
真似したくない人がいたら、自分は同じようにはしない。
引っ越したらそこの環境を観察し、
仕事場が変わったら、そこにふさわしい色合いを工夫する。
その繰り返しの結果、人はそのシーンにふさわしい洋服の色合わせをすることが可能になります。


洋服の色合わせは決して簡単なものではありません。
だけれども、簡単ではないからこそ、面白いのです。
そしてやればやるほど上達していきます。
それに取り組むか、取り組まないかは、人それぞれです。
絶対的な1つの答えはありません。
なぜなら、ファッションとは変化だからです。

変化を否定するもしないも、お気に召すまま。
それはその人の生き方です。
けれども、どちらを選ぼうとも、人生という舞台は続きます。
自分が演じられるのは、自分だけです。



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