ページ

2023年11月23日木曜日

「かわいい」を作り出す

相変わらず、「かわいい」が人気です。
実際には「かわいい」が表現する範囲は広く、
普通はかわいいとは思えないようなものにまでかわいいは使われています。

今回は、ごく一般的に多くの人がかわいいと感じるような要素をどうやってルックに取り入れたらいいのか、考えていきます。

洋服の世界において「かわいい」を表現する際に使われるのは以下の要素です。

・ふんわりとやわらかい素材や細部
・パステルカラー、あるいは暖色系
・男性が着ないようなアイテムやデザイン

ふんわりとやわらかい素材とは、例えばシフォンやオーガンジーモヘア、また手法としてはギャザーやプリーツなどです。

色に関しては、パステル調のピンクや水色、レモンイエロー。または赤、黄色、オレンジといった暖色系もかわいい女の子の表現にはよく使われます。

男性が着ないようなアイテムやデザインとしては、スカートやワンピース、フリルやレース、または花柄などです。

ここまでだと、「女性らしさ」と重なる部分も多いです。
なぜなら、男性はあまり「かわいい」を採用しないからです。

洋服の世界でかわいいを表現するときには、これ以上のものがあります。
それは、子どもが身に着けるような「かわいい」デザインの大人への転用です。

それは以下のようなものになります。
・ウエストのくびれがなく、ハイウエスト気味
・身体のラインを出さない
・台襟がないフラットカラー
・ハイソックスにメリージェーンのような、子どもがよくする足元

子どもは寸胴なので、ウエストのくびれがありません。
ですから、スカートをはくには吊りひもが必要になり、若干ウエスト位置は高めの設定です。
また、首も短いので襟はフラットカラーです。
また形も丸くすれば、より一層かわいさを強調できます。
ハイソックスはスポーツで着用しますし、必ずしも子供用というわけではありませんが、これがメリージェーンと組み合わされると、少女っぽくなります。
子どものピアノの発表会でよく見るような組み合わせであり、大人はあまり使いません。

以上のような要素をいくつか取り入れれば、「かわいい」ルックは出来上がります。
ついでに、メイクに関しても血色感がある暖色系のカラーでまとめれば、顔も含めてかわいくなります。

実際にこれらの要素を取り入れるのはそれほど難しくはありません。
ただし、注意点はあります。
それは、子どものかわいいの大人への転用要素です。

日本では、大人向けでも、この子供服の要素を取り入れた服が多数売られています。
実際に大人向けの、ウエストがぶかぶかな吊りひもつきのスカートは売られています。

しかし西洋の衣服においては、大人の成熟は子供っぽい要素を取り入れるほうへは向かいません。
子どもっぽい細部は、せいぜい若者向きであり、
いい年の大人の女性が取り入れるべきものではないと考えられています。
それは毎年行われるコレクションを見れば明らかです。
大人は成熟したものであるとして扱われます。
西洋のファッションが追い続けるのは、いつでも自分のことは自分で決められる自立した女性像なのです。

いい年の大人になってからこの成熟とは反対方向の幼さが表現された衣服を着用すると、おしゃれからは遠ざかります。
それは確かに「かわいい」でしょう。
しかしもはやそれは、おしゃれであるとか、スタイリッシュであるとは別物になります。

かわいくて、かつおしゃれな装いを作りたいときには、
この点に注意しなければなりません。

かわいいだけじゃなく、おしゃれでスタイリッシュに見せたいのならば、
子ども要素は取り入れないほうがよいと覚えておいてください。

どちらの大人を自分が目指しているのか、あるいは目指していたのか、
再度ご確認ください。
答えが出たのなら、それに従えばよいでしょう。



2023年11月7日火曜日

たくさんあると、魅力がなくなる

流行は、少数のモノ、少数の人によって始められます。
最初はたくさんのものの中に一点、あるいは大勢の中の一人が、
徐々に点数をふやし、まだらになり、点在しながらふえていきます。

流行は、たくさんのもの、大人数によって終わります。
点在の密度が高まり、ほとんどそれが覆いつくすほどになると、流行は終わります。
ファッションでいえば、
お年寄りや小さな子供までが着たり、履いたりするようになるほど広がると、
流行は終わります。

流行が終わったのは、魅力的に見えなくなったことが理由です。
私たちはどうやら、たくさん同じものを見ると、そこに魅力を感じないようにできているらしいのです。

例えば鳥です。
(最近、バードウォッチングを始めたので、鳥でたとえます)

雀やカラス、ムクドリなどは街でたくさん見かけます。
私たちは、もはや雀、カラス、ムクドリに特別な魅力は感じません。
魅力を感じないので、それを探してみたり、わざわざ見に行こうとはしません。

しかし、コウノトリやライチョウのように、絶滅危惧種に指定されているほど数が少ない鳥に対しては、非常に大きな魅力を感じます。
これら絶滅危惧種を見たり、出会ったりすることは非常に魅力的なことになります。
私たちは、絶滅危惧種を見ることを切望します。
また、それを見た人たちはうらやましがられます。
それはすなわち、数が少ない絶滅危惧種の鳥たちは人間にとって非常に魅力的であるということです。

たくさん見ると私たちは飽きます。
しかし、飽きるまでもなく、たくさん存在するというだけで、私たちは魅力を感じないようにできています。

ファッションも同じことです。
みんなが持っている、よく売れている、これらのものは飽和すれば、
それはありふれたどうでもいい、特別魅力を感じないものになります。

その魅力を感じない主体には他人ばかりでなく、自分自身も入ります。
自分自身にとっても、たくさんあるものはどうでもいいものになります。
見慣れたもの、たくさんあるものは、自分自身でさえ魅力を感じないため、
それを着用するのが嫌になるのです。

であるならば、最初からその「たくさん」のものを選ばなければいいのではないでしょうか。
わざわざみずから、雀やカラス、ムクドリのような見た目を作る必要はないのでは?
1980年代、90年代の黒ずくめのカラスルックの流行は、
それが街全体にまん延して終わりました。

どんなに一羽一羽がかわいくても、いつもそこにいる、何も珍しくない存在となれば、それは魅力を感じないものになります。

いっそ私たち自身も絶滅危惧種になるぐらいでちょうどいいのです。
それは誰もが見たがるでしょう。
それは誰もが探し続けるでしょう。
なかなか見ることができない魅力的なもの、
そちらを選ぶほうが、ずっと珍重され、憧れ続けられるのです。