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2015年12月2日水曜日

印象コントロール

いまだに多くの人が他人の目を気にしてワードローブを構築しています。
その理由はいくつかあります。

その1つが、
「いつも同じ服を着ていると思われたくないから」という理由で、
たくさんの枚数を所持する場合です。

では、その当の本人が、
「いつも同じ服を着ている」と思われていないかといえば、
それは、はなはだ疑問です。

たくさんの人の実際のワードローブを拝見してきましたが、
この「いつも同じ服を着ていると思われたくない」という考えにとらわれている人ほど、
それとは逆の方向にワードローブの構築をしています。
つまり、意図するところとは違った結果を導くようなワードローブです。

例えば、こんな感じです。
何本ものブルー・ジーンズ。
3枚以上のトレンチ・コート。
Vネック、クルーネック、カーディガンと集めたグレーのニット。
微妙に色が違うだけの同じ形の台形スカート6枚。

「いつも同じ服を着ている」と思われたくない人たちの、
ワードローブを眺めてみればわかることですが、
そこには細部は違うけれども、
似たような形、色のものが多数そろえられています。
しかし実際のところ、
他人の目から見れば、
それはどれも同じです。

ジーンズがリーバイスだろうが、LEEだろうが、それはジーンズですし、
トレンチ・コートがバーバリーだろうが、アクアスキュータムだろうが、
それはトレンチ・コートです。
台形スカートの色や素材が少しぐらい変わっていようが、
それはいつも同じようなスカートをはいている人です。

他人の目は、細部やブランドなど、識別しやしません。
大体が、ジーンズをはいている、
スカートをはいている、
トレンチ・コートを着ていたなど。
もっと大ざっぱだと、
パンツかスカートか、それぐらいしか見分けません。
ですから、ジーンズを何本とりそろえて、毎日違うものをはこうが、
それはジーンズばかりはいている人ですし、
違うブランドのトレンチ・コートを毎日とりかえて着ていこうが、
それは毎日、トレンチ・コートの人なのです。

次の例です。
他人とは何らかの区別をつけたいと狙う人の多くが、
どこのブランドかすぐわかるようなブランド物のバッグを持っています。
すぐわかるということは、
ブランドのマークが大きくついていたり、
または、ブランド名が書いていたり、
デザインが一目でどこのものかわかるようなもの、ということです。

そういった人たちの多くが、
その人自身より、ブランド物のバッグのほうが印象深くなるという結果を招いています。

例えば有名なブランドの、シグニチャ―・モデルといわれるようなバッグを持っていたとします。
それが、その人の全体のスタイルとバランスがとれている場合は全く問題ありませんが、
そうではなく、
そのバッグだけが突出したクオリティや価格だとすると、
当然、そのバッグに人々の視線は注目します。
逆の言い方をすると、
他人は、そのバッグを見こそすれ、その人自身のことは見ません。
もし初対面の人だとしたら、その人のことではなく、バッグのことを記憶します。
今日会った何々さんはどんな人だったのかと聞かれたら、
「45万円ぐらいのシャネルのバッグを持っていた人」と答えるでしょう。

ファッション誌やネットに情報として流通している、
多くの有名なブランド物のバッグは、多くの人が記憶しています。
もしそれを全体のスタイルとは関係なく、持っていたのなら、
確かに多くの人は、そのバッグについての自分の記憶を喚起し、
頭の中で情報を処理し、新たに記憶し直すでしょう。
しかし、それだけです。
記憶に残るは、どこどこのバッグ、だけです。

このどちらの例も、
他人の目を気にして、その印象をコントロールしているようで、
それに失敗しています。

いつも同じものを着ていると思われたくなければ、
アイテム自体のデザインを変えなければなりません。
同じトレンチ・コートを何枚も用意するのではなく、
トレンチ・コート、ダッフル・コート、ピーコート、ステンカラー・コートというように、
アイテムをずらしていかないことには、
全く意味がありません。

また、どんなに高価なバッグを持っているとしても、
それが自分より目立ち、
他人の印象がそれだけになるのならば、
そのバッグを持つことの意味はありません。
高価なブランド物のバッグを持つならば、
そういえば、あのバッグはどこのものなのだろう、
ああ、あそこね、ぐらいの印象でなければなりません。
最初から、ディオールの50万のバッグの人、という印象だけを
他人に植え付け、
その人のことは忘れ去られたのでは、
全く意味がないのです。

これらすべて、自分が他人をどう見ているか考えてみればわかります。
あなたは誰かが着ていたジーンズがリーバイスなのか、LEEなのか、
気づいたでしょうか。
電車で一瞬すれ違った人がシャネルのバッグを持っていたとしたら、
それ以上、その人のことで何か覚えていることはあるでしょうか。
あるとしてもうろ覚えでしょう。
ましてや、その人自身の印象など、ほとんど記憶にないはずです。
他人とは、そういうものです。
そしてあなたも、誰かにとっての他人です。

他人、そして自分が識別するのは、
大まかな形、色、はっきりとわかる記号です。
ファッションに興味のない人だとしたら、
それは、スカートをはいていた人、パンツをはいていた人、
明るい色を着ていた、
暗い色を着ていた、
その程度です。
そして、バッグや財布に何か文字が書いてあり、
それがよく知られたものだったら読んで、情報として処理する。
それだけです。

好きなものを着つつ、
他人に与える印象をコントロールすることは可能です。
それはたくさん枚数を持っているとか、
ブランド物を持っているとかいう問題ではありません。
他人がよく見ていないところは端折り、
よく覚えているところを変えていく、
それだけでいいのです。

他人の目を気にするのなら、
もう少し賢くなりましょう。
あなたが気にしているところを、他人は見てはいません。
同様に、誰かが気にしているところを、あなたは見ていません。



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