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2012年8月20日月曜日

ヴィンテージ


ヴィンテージ、またはヴィンテージ風のものが最近、流行しています。
ヴィンテージを取り入れることによって、いろいろな効果が生まれます。
まず1つは、オリジナルということ。
ヴィンテージは、ほぼ1点ものです。
ですから、ほかの人とかぶるということがありません。
現在のような、大量に同じ品物が出回る時代において、手軽に1点ものを取り入れられるということは、着る人のオリジナル性を出すのに役立ちます。
次に、その風合いです。
新しいものと違って、ヴィンテージには年代を経たものが持つ、独特の親しみやすさがあります。
また、大事に着続けられてきたものだけが持つ、一種のはかない輝きも、特徴ではないかと思います。
ノスタルジックなはかなさが、着る人のセンスのよさをあらわします。
それはぴかぴかした新品の服にはないものです。
人は、すべてが真新しい空間にいるときに、何かそわそわしてしまうように、
新しいものだけのスタイルも、ほんの少しですが、居心地が悪いのです。
ヴィンテージを取り入れたスタイルは、なじみのカフェでくつろぐような、
リラックスした雰囲気を着る人に与えてくれるので、誰からみても親しみやすくなるでしょう。

また、いつも書いていることですが、
洋服のスタイリングはバランスが最も重要です。
新しいものだけではなく、古いものも取り入れないと、全体のバランスが悪いのです。
ですから、その全体のバランスをとるためにも、ヴィンテージは使われます。

ただ、ここで問題があります。
ヴィンテージを選ぶのは、とてもとても難しいのです。
私もロンドンなどに行ったとき、必ずヴィンテージショップへ行って、見てはみるのですが、
今まで一度も買ったことがありません。
ずいぶんと丁寧に、スカーフの一枚一枚までも吟味するのですが、これがなかなか買えないのです。
なぜかというと、そのヴィンテージの服や小物が持つ、目には見えない歴史の部分が感じられて、
おいそれと自分のものにしたいとは、思えなくなってしまうからです。

人には五感があります。
目に見えるもの、
さわる感触、
香り、
聞こえるもの、
味覚。
このうち、洋服を選ぶときに主に使うのは見た目と、感触でしょう。
(少しばかり、においというものもあります)
だけれども、ヴィンテージを選ぶときは、この五感をこえた、目に見えない、
さわってもわからない、その服が持っている歴史、層、レイヤーも重要なのです。
それは見えないし、さわってもわからない。
けれども、たしかにそこにある、それ以上の情報。
ここのショップに来る前に、
あの小高い丘の貴族の館に住んでいた、
美しい貴婦人が、
いつも散歩をしていたときにかぶっていたしゃれた帽子。
その貴婦人は、貴族の末裔ではあったけれども、
つつましく暮らしていて、つい最近、ひっそりとこの世を去っていった。
そのとき、婦人の部屋のクローゼットに大事にケースに入れられてしまってあった、その帽子。
それが今、このショップにあり、私が目で見て、手で触っているもの。
これは、ただの古い帽子ではない。
あの美しい貴婦人が大好きだった帽子。
こんなふうに、ヴィンテージには、その背景に物語があるのです。

私たちはサイキックではないので、さわっただけで、この情報のすべてを感じとるわけではありません。
けれども、何かがわかるのです。
このものが持っている、感情や思いが。
それは誰にでもある経験だと思います。

だから、ヴィンテージのものはなかなか買えません。
手に撮った瞬間、うん、大丈夫だ、いい気分がすると断言できるものでないと、
自分のたんすに入れるわけにはいきません。

では実際、どうやってヴィンテージを選んだらいいでしょうか。
まずは、信頼できるショップをみつけること。
信頼できるオーナーを見つけて、その人が選んだものなら大丈夫と思えるものを選ぶこと。
そういったショップは、余り規模が大きくないですから、少数精鋭の品ぞろえでしょう。
その中から、何度も通って選ぶこと。
そして、ほんのちょっとでも、何か違うかも、と思ったら、決して買わないこと。

また、なるべく先によいものを見ておくこと。
外国に行ったら、服飾博物館を訪れて、展示品を数多く見ておくこと。
ある程度、目が肥えてから、実際に買いに行くとよいでしょう。

次、もう本物のヴィンテージを買うのはあきらめて、
ヴィンテージ風のものを選ぶ。
新品ではあるけれど、古い感じが出ているものは、それだけでリラックス感があります。
そういうものを1つ取り入れると、全体として、スタイルがしっくりくるでしょう。

見えたり、触ったりしたものの先に、見えない、触われない情報がある。
これは、何もヴィンテージに限ったことではありません。
本当はどんな新品の服にも、見えない情報があります。
誰が、どこで、どんな環境で、どんな気持ちで作ったか。
生産されたものは、すべてこの情報を持っています。
プレタポルテという、既製服がこの世に出てから、
この情報は限りなく買う側から遠ざけられて、わからなくなりました。
大量消費時代になった現在、隠されている情報はたくさんあります。

見えるもの、さわれるものに惑わされないで、
それ以上の情報を探索してみましょう。
どんなものにもそれがあります。
それは人でも同じです。
見た目、
語られた言葉、
つけている香り、
それらは、いとも簡単に人をだまします。
そろそろ私たちは、それ以上の情報を知る能力を開発したほうがよさそうです。
ヴィンテージを選ぶとき、あなたも試してみてください。
見えないものが、そこにあると感じるかどうかを。
そしてそれがわかる自分であるかどうかを。

☆写真:これは私のヴィンテージ。70年代のウンガロ(日本製)のヴェルヴェットジャケットと、70年代のグッチの鞄。名づけて銀座ルック。都会に行くときしか使いません。ジャケットは母が着ていたもの、グッチは父がヨーロッパから買ってきたもの。本当はこれにエルメスのスカーフもあるけど、恥ずかしくて身に付けたことがないです。お店で買わなくたって、家にだってヴィンテージのものがあるはず。それをうまく使うのが、本当は一番のお勧めです。