2012年以降のシルエットの変化に伴って、
服そのものの構造が変化してきています。
最初にその片鱗が見られたのが、貫頭衣、つまり、四角い布に頭を通す部分だけあけたような、
原始的なスタイルでした。
貫頭衣は、衣服の原初的な形ですから、その後に待っているのは、
進化の過程です。
ここへきて、コート、ジャケットなどを含むトップスに、
Tシルエットという、Tの字のような肩線のシルエットのアイテムが多くなってきました。
平らなところへ置いてみるとわかりますが、
肩線は直線、またはなだらかな傾斜で、
肩幅は実際の身体の肩よりかなり広く(たぶん10センチぐらい)、
袖は腕の途中から始まります。
当然、体にはタイトにフィットしません。
その大き目の肩幅のものを、
ふわりと羽織るスタイルが多く出てきました。
特に春夏物においては、大き目のTシャツやドレスなど、
かなりこのスタイルが見られます。
新しく提案されたものは、いつでも最初、粗野な形のままあらわれます。
新しくはあるけれど、まだまだ洗練されてはいません。
その新しさがある程度、浸透していったそのあとは、
洗練への道が始まります。
今はその洗練が始まったばかりの時期に該当します。
思い起こせば、いつでもこのことは繰り返されてきました。
80年代の黒く四角いビッグシルエットのときも、
2000年頃に、いきなりタイトなシルエットがあらわれたときも。
最初のデザイン、そしてスタイルは、大胆ではあるけれども、どれも荒削りです。
そして、それは時間をかけて成熟していきます。
成熟したその後は、だんだん飽きてきて、
無理をしながらの維持と、惰性と、まやかしが横行します。
もうそうなったら、流行は終わりです。
その渦中にいると、このことはわかりません。
そして、受け身なだけの視点でも、そのことには気づきません。
なぜ今これが流行っているのか、
そしてその流れはどこへいくのか把握しなくては、
そのとき起きていることの本当の意味を知ることはできません。
ですから、選択するときには、一つ上の視点が必要です。
Tシルエットは、洗練への道の途上で出てきたシルエットです。
これはまだ、進化の過程です。
今、多くのデザイナーたちは、どうすればより洗練されるのか、
シックになるのか探っている最中です。
最終的な答えが出るのは、もう少し先のことでしょう。
Tシルエットは、この移行期のシルエットとして、楽しむことができます。
逆に言えば、シルエットとしての完成型ではないので、
定番や、永遠性とは遠いということです。
この流れの中で、どんな完成型のシルエットが出てくるのかは、
まだ誰にもわかりません。
案外、そんなものなど、ないのかもしれません。
ファッションは、時代と過去からの伝統だけでできているわけではなく、
人間の肉体抜きでは作れません。
どんなにシルエットを変えようとしても、
人間の体からは逃れられません。
Tシルエットの行き先をながめつつ、
自分に必要なものを選びましょう。
それは永遠に続くものではありません。
今だけの楽しい遊びかもしれません。
与えられた流行の波に流されるのではなく、
こちらから、その波に乗るか、乗らないかは自分で決められます。
視点を上に持てば、それは、できるはずです。