フラット・シューズが戻ってきました。
もちろん、今までも完全になくなっていたわけではありません。
バレエ・シューズは常に売っていましたし、
多く提案もされていましたが、なかなか主流にはなりませんでした。
理由は簡単です。
2000年ごろから続いた、タイトなシルエットには、
フラット・シューズではバランスがとれなかったからです。
ハイ・ヒールについての記事で前にも書きましたが、
タイトな服にヒールのない靴は似合いません。
ミス・ユニバースを決めるときの水着審査で、
女性たちがビーチ・サンダルをはいて出てきたのでは、
審査にはなりません。
水着という最もタイトな衣装を身に付けた女性が最も美しく見えるためには、
ハイ・ヒールでないとだめなのです。
これが逆に、フラやタヒチアン・ダンスの衣装だったら、
足元はフラットで構いません。
上半身がいくらタイトだとしても、
ボリュームのあるスカートには、フラットな足元が似合います。
新しいボリュームの流れがある程度定着したので、
ここへきて、フラット・シューズが完全に戻ってきたのです。
すべてはバランスの問題です。
フラット・シューズが戻ってきたのは、
バランスが変わったからにほかなりません。
今、盛んに提案されているのは、以前とは違うバランスなのです。
ですから、ここ四、五年と同じバランスの服に、いきなりフラット・シューズを合わせても、
それは似合いません。
靴だけフラットにすればいいという話ではなく、
全体のボリュームを見て、バランスを決めなくてはなりません。
フラット・シューズにはフラット・シューズにお似合いのバランスがあります。
それは端的に言えば、以前よりボリュームがあるということです。
布地をたくさん使ったフレア・スカートやプリーツ・スカート、
なで肩でボリューミーなコート、
ワイド・パンツ、
流れるドレープのワンピースなど、
フラット・シューズが似合うバランスのアイテムがたくさん出てきました。
このバランスを新しく取り入れたとき、
今までのバランスに慣れた私たちの眼は、
その見慣れないバランスを、すぐには素敵と思えないかもしれません。
誰でも慣れ親しんだものに愛着を感じるものです。
慣れ親しんだ、そのバランスの作り方のほうが、
まだまだ格好いいように思えるかもしれません。
しかし、あえてそれを飛び越えていくのがファッションです。
もちろん今の流行は、
フラット・シューズが流行ったら、それ一辺倒になるわけではありません。
同時にハイ・ヒールも存在します。
ただくれぐれも忘れないでほしいのは、
同じバランスでハイ・ヒールもフラット・シューズも似合うわけではないということ。
パンツ丈やスカート丈、そのボリュームなど、
どんな高さのヒールの靴をはくかによって、微妙にふさわしい丈が変わってきます。
スタイルを完成させるためには、
鏡の前でのバランス・チェックは欠かせません。
いずれにせよ、選択肢がふえるということはよいことです。
選ばされていた、または選ばざるを得なかった時代から、
選べる時代への変化です。
ハイ・ヒールをはくもよし、
フラット・ヒールをはくもよし。
重要なのは、それを決めるのは自分だということです。
自分にふさわしくない流行には毅然としてノーと言うことも必要です。
だけれども、ときには、自分を縛る過去や古臭い習慣も、
潔く捨てなければなりません。
たくさんのフラット・シューズが選べるようになった今、
誰かから言われたからでもなく、
自分で決めた習慣からもいったん離れて、
遠くまで歩ける靴を見つけましょう。
やる前にあれこれ理由や言い訳をしないで、
まずは選んでみること。
それが似合うかどうかは、
その靴をはいてみて、初めて分かります。
シンデレラはガラスの靴をはいて、自分の住む世界を変えました。
その一足は、もしかしたら、あなたの住む世界を今とは全く違うものにするかもしれません。
新しいバランスと新しい靴で、新しい世界を歩きましょう。
それで得られる経験は、自分で選んで行動したものにだけやってくる、世界からのプレゼントです。