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2012年1月9日月曜日

進化するフェアトレードとオーガニック

2012年という年が明けました。
ごくごく一部では、2012年に世界が終わる、というような終末論もあるようですが、
それでも間違いなく、人類は地球最後の日まで、何か衣服を身につけていることでしょう。
素っ裸ということはないはずです。

さて、昨年はどなたにとっても、何かと考えることが多かった年ではなかったかと思います。
私が最も考えたのはやはり、私がアパレル業界で働き始めたころからずっと疑問だった、
「誰かの不幸によって立つ「幸せ」とは何なのだろう」ということでした。
自分以外の誰かに不幸や苦痛を背負わせて、それでもなお人は幸せになれるのだろうか、という疑問です。

アパレル業界において、フェアであるとか、オーガニックという意識は、たとえば食べ物などに比べたら、ずっと遅くまで重要視されていなかったと思います。
少なくとも、私が働いていた頃は、誰もそのようなことを口にする者はいませんでした。
また疑問を感じたとしても、今のようにインターネットもない時代、確かめるには生産の現場へ行くしかなく、その時間、財力、勇気を持ち合わせている人間は、アパレル業界には皆無といっていいほどでした。
そんな中、サフィアさんというイギリス人が「ピープル・ツリー」というフェアトレードかつ、オーガニックを掲げた会社を立ち上げました。ちょうど20年前のことです。
設立してから何年かたって、新聞などでその存在はちらっと紹介されて、興味深く読んではいましたが、それ以上の情報は乏しく、実物に触れることもありませんでした。
私もちょうどアパレル業界にいたころで、ほとんど休みもなく、あってもただ寝ていただけなので、わざわざ実物を見に行くこともありませんでした。

そのころ、アパレル業界の間で、フェアであるとか、オーガニックという意識を持つ人は、ほとんどいなかったのではないでしょうか。
なぜなら、彼らのやっていることが、まったく「フェア」ではなかったからです。
会社から家賃40万円のマンションを支給され、お昼過ぎに高級外車で表参道の会社までやって来るデザイナーは、デザインのことを考えるだけのクリエイティビティはあったようですが、その彼らのクリエイティビティを実現するために、だれが、どんな状況下で、どんな労働を行っているかを想像する力を持ち合わせてはいませんでした。
安い賃金で、残業代も出ず、遅くまで働いている、その「デザイナー」以外のスタッフたちに、某商社の男性社員が、アルマーニのスーツに身を包み、腕からはブルガリの時計をのぞかせて、四谷の「わかば」のたい焼きの差し入れで、サービス残業している私たちをごまかそうとしている、その薄い笑顔を、私は今でも覚えています。
(そのとき、私はそのたい焼きを食べませんでした。まあ、別に好きでないっていうのもあったんですけど・・・)
それでもまだ私たちはましなほうだったのかもしれません。
無理やりに納期を迫られる工場さんや、明日までとせかされるプレス屋さんなど、
同じように、いえ、それ以上に大変な目にあっていた人たちがいたと思います。
(その中には福島の須賀川の工場さんもありました)
そういう人たちに支えられながらできる、経済的な豊かさを享受する、ある一部の人たちは、それで本当に幸せになれるのだろうか。服を作るデザイナーって、人を幸福にしているのだろうか、というのが当時からずっと疑問に思っていたことでした。

その同じ時代に設立された「ピープル・ツリー」は見事な進化を遂げて、まだまだ成長を続けています。
当初、どうしてもエスニックテイストに傾きがちだったデザインは洗練されたものに改良されました。同時に「ピープル・ツリー」においては、国内外の有名デザイナーを採用。それらの洗練されたデザインのウエアは、気がつくとソールドアウトになっているほどの人気です。
それだけでなく、「ピープル・ツリー」では女優のエマ・ワトソンも賛同し、ティーンズ向けのウエア作りに参加しています。
また、どうしても高い値段がネックだったオーガニックコットンも、最近は値段がこなれてきて、安いものを2枚買うところを1枚にすれば十分、手が届く値段設定になりました。
綿に使われる農薬は、世界の農薬使用量のほとんどを占めています。いまだにオーガニックコットンの生産量は全体から見たら少量ですが、消費者が選べば、それを増やすことも可能です。
「ピープル・ツリー」が生まれたころは、その存在はまったく目立たない存在でしたが、今では路面店も持ち、普通の人にも知られるようになり、なおかつまだ発展途上にあります。
これはすごいことです。
だって、ちょっと周りを見てください。デザイナービジネスで20年続く会社は、ほとんど日本にはないのです。
ある会社は倒産し、あるデザイナーは荒れた生活の末、50代の若さで他界したと聞きました。
かろうじて名前が残っているブランドでも、前ほどの勢いがあるところなど、ありません。

ただ、最近の潮流は明らかに変わってきています。
ここ10年ぐらい、オーガニックな素材を使って製品を作る若いデザイナーが増えてきましたし、また小規模ではあるものの、チベット民族とのフェアトレードで、ラグジュアリーなウエアを生産しているブランドも出てきました。
もちろんオーガニックコットンのウエアを販売している会社もあります。
それらはファストファッションを作る会社と比べたら、確かに規模は小さいです。しかし、規模が小さいからといって、続かないというわけではないのです。同様に大企業がずっと成長し続けるなど、あり得ないのです。もうそんな神話にはだまされません。

与えたものは返ってくる、と言われています。
インドでは、これをカルマと呼びます。
あなたが与えたものが苦痛であれば、もっと大きい苦痛となって戻ってくるでしょう。
それは、いいとか、悪いの問題ではありません。
ただ単に、そうだ、というだけです。

私がずっと長年持ち続けていた疑問も、最近、解消されました。
少し時間はかかりましたが、その人が与えたものは、その人のところへ返っていきました。

何を他人に与えるのか、気をつけましょう。
それは必ず返ってきてしまいますから。
そして、もしそれが返ってきてほしくないものだと気づいたなら、
今からでも遅くはありません。改めましょう。
そうすれば、あなたはそのカルマのループから抜け出すことができます。

☆「ピープル・ツリー
☆「プロジェクトサスティナビリティー」オーガニックコットンやサスティナブル(持続可能)な製品作りをしているブランドを集めているサイト。日本のデザイナーも参加。
☆「プリスティン」お客様に紹介していただいたオーガニックコットンのインナーやウエアなど。こちらはオーガニックだけでなく、日本製です。