2024年4月現在、円相場は1ドル154円。
これは約34年ぶりの水準です。
34年前とは1990年あたり。
長く生きてきた人は、この年を経験し、覚えているでしょう。
このころ、日本のデザイナーたちがパリコレで多く認められるようになり、
世界のファッションに大きな影響力を与えた時代です。
表参道を歩く若者たちは、この日本のデザイナーの作る服を着て、
仕事へ行き、カフェでお茶を飲み、美術館や映画館、ライブ会場へ向かったのでした。
このころ、アパレル製品の多くは日本製でした。
もちろん木綿や羊毛など、原材料の多くは輸入でしたが、
それでも日本産の生地を使い、日本で縫製されたものを、
日本の若者たちが自分たちで稼いだお金でそれを買って、着て歩いていました。
一枚の価格は決して安くはありません。
私の記憶では、当時、パンツやセーターは2万円程度、
ジャケットは4,5万円といったところでした。
これがコレクションに参加しているブランドとなると、もっと高くなります。
コートで10万円以上したでしょう。
まだインターネットに接続する人が多くはない時代、
ファッションに関する情報は雑誌や新聞、そして一部テレビのみでした。
コレクションは招待されなければ見ることができず、
多くは雑誌に掲載される写真によって、その内容を確認しました。
そのころの若者は皆それぞれ違う格好をしていました。
今ほど、同じものが大量に生産されることはなかったので、
全く同じ格好の人と表参道の交差点ですれ違う確率は非常に低いものでした。
もう一点違うことがあります。
このころの若者は、服を1年や2年で捨てたりはしませんでした。
2万もするスカートやパンツや、10万もするコートをすぐに捨てたりするわけがありません。
ある程度長く着るのはごく普通の一般的なこと。
自分で働いたお金で買った、安くはないコートやジャケットを大事に着る。
しかも工夫を凝らして着る。
その結果、おしゃれな若者が表参道の交差点に多く集まりました。
2000年に入るころ、その様相が一変します。
大量生産の安い衣料の出現です。
2000年の円の相場は1ドル107円前後。
1990年代に比べて円高になりました。
1990年代に始まった生産工場の海外移転は加速し、国内生産品は徐々に海外生産品にかわりました。
その結果、2024年の現在、日本製の衣料は全体の2%にまで減りました。
大量生産の安い服が出現したため、
購買する1枚の単価は低くなりました。
同時に、所有枚数と捨てる枚数もふえました。
新聞や雑誌が情報源だった時代は終わり、インターネットがそれにとってかわりました。
1枚は安い、たくさん買う、たくさん捨てる。
アパレル製品は今や、週刊誌のように扱われるようになりました。
またその方法、つまりたくさん買って捨てるこそがおしゃれなのだと吹聴する言説も散見されたため、
多くの人がその方法を採用しました。
一方、この方法を採用しなかった人々が一部います。
その人たちは、安くはない服を、少し買い、捨てないでとっておきました。
それは90年代のおしゃれな若者と同じ方法でした。
2024年4月、円安によって維持できた前者の方法は、ほとんどの人にとって不可能なものとなりました。
理由は、円安によるインフレ率と同等に、可処分所得がふえていないからです。
今、安心しているのは後者の、安くない服を、少し買い、捨てないでとっておいた方法を採用した人達です。
厳選された服をとっておいたので、今慌てることはありません。
慌てていない理由がもう一つあります。
後者の人は、一枚を長く保持し、着続けるため、
常に自分のスタイルについての考察を余儀なくされました。
そのため知らず知らずのうちに自分のスタイルができ上がりました。
よくあるテレビや雑誌の変身コーナーは、
確かに変身後のほうが変身前よりも見栄えがよくなってはいますが、
そこにその人のスタイルはありません。
スタイルは、その人のことをよく知らない他人には作れません。
そして何より、スタイルを作るのには時間がかかります。
一枚の保持が長ければ長いほど、その人独自のスタイルも完成に近づきます。
皆さんが大好きなシャネルの言葉があります。
「ファッションは移り変わるが、スタイルは永遠」
"La mode se démode, le style jamais."
安く新しい服をたくさん買っては捨てるを繰り返す。
それは確かにファッションでした。
それを楽しく思った人も多いでしょう。
しかし、1990年と同じ為替相場では、それはもう無理なのではないでしょうか。
それがもう無理になったということは、街行く人々が証明しています。
アパレル業界は輸入品に頼っています。
よって、円安になったなら、価格は1.5倍から2倍に上がるでしょう。
この状況からあなたを救うには、ファッションをやめて自分のスタイルを作ること。
日本語で言うなら、流行を追いかけるのをやめて、
自分なりのおしゃれを追求する方向へと、
自分自身の行動を転換すること。
短時間で安くは手に入りません。
それがスタイルというものです。
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