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2012年3月26日月曜日

物語が始まりそうな服を選ぶ



先日、こんな質問をいただきました。
「ちゃんとマップも作って、自分の色も決めて、ワードローブの数も厳選して、それで上着を1枚買い足したのですが、着ないままずっとクローゼットに吊る下げたままの状態なんです。何がいけなかったのでしょうか。」

すかさず、私はその方に質問しました。
「で、その上着はいつ、どんなシチュエーションで着ようと思ったの?」
その答えは無言。

すべてこの世は舞台で、あなたが主人公。
同時にあなたは、監督兼衣裳係。
あなたは主人公が何幕の、どのシーンで何を着るのか考えて、決めなければいけません。
上着を1枚選ぶときでも、その主人公が、どのシーンでそれを着るのか、決まっていて当然なのです。
それはいつでしょう。
通勤時?買い物へ行くとき?都会へショッピングへ行くとき?お芝居を見に行くとき?
またはガーデニングのとき?走るとき?駅のホームで立っているとき?
これが決まっていないと、その服は出番がなくなってしまいます。

しかも、その服を着た主人公は、どんなふうに見えるでしょう?
たとえば、買い物へ行くとき、というシチュエーションにしましょう。
これはほとんど誰の生活にも出てくるシーンです。
買い物へ行くとき、ちょっと羽織って、ポケットにカギを入れて、さっと自転車に乗り、または車に乗り、そうでなかったら、徒歩で、颯爽と出かけていくときの服。
その服を着て、ちょっと高級スーパーで、イギリスの紅茶を買う。
たくさんある紅茶のたなで、首をかしげながら、どれがいいか迷っている。
なんだかよく売れていそうな銘柄を見つけ、最後の1箱に手を出そうとしたら、
横から、さっと好青年(ごめん、イケメンって言葉、嫌いなのよ)があらわれて、
その同じ紅茶に手を伸ばす。
思わず、お互いの顔を見る2人。
好青年は、「あ、どうぞ」と言って、あなたに紅茶を譲ってくれる。
あなたも、「あ、いいです、どうぞ」と言って、その紅茶を差し出す。
すると好青年、「これ、おいしいですよね」
あなた「え、私、飲んだことないんです」
好青年「じゃぜひ飲んでみてください。僕、ロンドンにいるとき、ずっと飲んでたんですよ。一番好きなんだけど、ここでしか売ってなくて……」
あなた「ロンドンにいらっしゃったんですか?」
好青年「ええ、ちょっとだけですけど」
あなた「留学ですか」
好青年「ええ」
あなた「私もロンドンに語学留学してたんですよ。リッチモンドに住んでました」
好青年「ああ、そうでしたか。いいですね、リッチモンド」


とかなんとか言って、もしかして恋が始まるかもしれません(本当か?)。
そのときに、主人公であるあなたは、どんな服装をしているでしょうか。
その好青年はたいそうな美形です。
別に恋人にならなくても、お友達としてしゃべってながめているだけでも満足です。
そんなときに、あ、しまった、こんな服、着てくるんじゃなかった、というような服ではなくて、ああ、よかった、このお気に入りのブルゾン着てて、今日の私は素敵だわ、と思えるような服を選ぶべきなんです。

もっと言えば、その服を試着してみた瞬間に、あ、これは、こういうときに、こういう場所で、私が着ていたら、素敵だし、自分にも自信が持てるし、もしかしたら、恋が生まれるかも、
ぐらいに妄想が広がる服でないと、買ってみても、ただ吊るしてあるだけの、何の役にも立たない服になってしまいます。

服は誰かが着るためにあります。
着なければ、単なるボタンやポケットがついた、単なる布のかたまりです。

服を選ぶとき、頭の中で想像してみてください。
時間、場所、シチュエーション、そして、物語が始まりそうか。

こんなふうに考える能力は個人差があります。
服を手に取った瞬間、ぱーっと頭にイメージが浮かぶ人もいるでしょうし、まったく何も感じない人もいるでしょう。
なかなか思い浮かばないタイプの人は、すぐに買わないで、いったん家に帰って、その服を着た自分がどこまで想像できるか、やってみてください。
自分で想像できないことは、現実にはなりません。
その服を着て行動している自分が想像できないならば、その服は着なくなるでしょう。

大好きな映画やテレビのドラマを見て、
あなたは、その主人公と一緒にどきどきしたり、悲しんだり、喜んだりするでしょう。
でも、もっと楽しいのは、テレビを見ることではなくて、
自分が自分のドラマの主役をちゃんと生きることです。
あなたがあるドラマを見て、あ、あの主人公の着ている服、いいなと思う感性があるならば、
自分の服に対しても、その感性を発揮できるはずです。

次の週の同じ曜日、同じ時間、あなたは同じブルゾンを着て、同じ高級スーパーへ行きます。
再び紅茶のたなの前へ立っていると、向こうから例の好青年がやってきます。
そして、彼はあなたのことを覚えています。
それは、あなたがとても似合うかわいいブルゾンを着た、印象的な人だったからです。

自分が身につけてみて、たくさんの楽しいイメージがわく服を選びましょう。
そうすれば、あなたの人生の、新しい物語が始まります。

☆写真 「すべてこの世は舞台」は、シェイクスピアのせりふです。