2012年以降、ファッションのトレンドは、完全に新しい流れへと入りました。
トレンドが変わるということは、服のシルエットが変わるということです。
当然のことながら、服のシルエットが変われば、
コーディネイト全体のバランスも変わってきます。
この時期、新しいバランスを作ることが、おしゃれに見えることの条件になってきます。
トレンドが変わる時期は、もちろん過去にもありました。
最近では、90年代後半から2000年に入るころ、
それまでのだぶだぶしたシルエットから、
急激にタイトなシルエットになっていった時期です。
おしゃれに敏感な人たちは、流行をいち早くかぎ分け、
ぶかぶかなパンツを捨て、スキニー・ジーンズをはき、
ストレッチの入ったぴったりしたTシャツをトップに持ってきました。
それは今まで見たことがないシルエットで、
大きな服にそろそろうんざりしていた人たちには、
衝撃的なほど、新鮮にうつったのでした。
それと同じ現象が、今、起きています。
今回は、ぴったりタイトが長く続いたせいで、
その反動で、全体のバランスが大きくなります。
服の新しさというのは、ものとしての新しさの問題だけではないのです。
体と布の間にできる空気の分量がどれだけ新しいものなのか、
そちらのほうがより重要です。
そして、明らかに全体のシルエットが変化してしまった今、
古いトレンドを引きずった、ものとして新しい服を買っても、
それは、新しいとは言えません。
問題なのは、その服で、どれだけ新しいバランスのコーディネイトできるか、
ということなのです。
これからは、2000年にはおしゃれに見えたコーディネイトのバランスは、
もうすでにおしゃれには見えません。
あのときはどんなにそれが格好良かったとしても、
今はもうそうではありません。
それがファッションであり、流行です。
コーディネイト・ブックのコーディネイトは、
発売されたときにもっともおしゃれなのであって、
それが永遠に続くわけではありません。
コーディネイトにおいても、シルエットとバランスは、ゆるやかに変化していくからです。
さて、これから約10年は続くであろう新しいバランスは、
体にぴったりフィットしたものでないことは明らかです。
ビッグであることは確かなのですが、
かといって、80年代のビッグ・シルエットとも違います。
80年代のビッグ・シルエットは、マスキュリンの要素が強いものでしたが、
次の10年、強調されるのはフェミニティです。
ですから、必ずしも、ビッグ・シルエットのコートやジャケットに、
マニッシュな靴をあわせるわけではありません。
細いピンヒールは、まだ健在です。
また、50年代から60年代、ディオールに代表される時代のシルエットにも、近いものがあります。
けれども、やはりそれとまったく同じというわけではありません。
あの時代の清楚で、きっちりしたイメージと、
これからのもっとおおらかで、混沌としたイメージでは、
生まれてくるデザインも違うでしょうし、全体のバランスもほんの少しですが、
違ってきます。
これはまだ私もはっきりつかめているわけではありませんが、
たぶん、何か逸脱した要素があると思います。
そして、それは「役に立つ」からは、ほど遠くなります。
ドレープやフレアなど、無駄な要素が多くなります。
トレーナーにフレアスカート、ハイヒールのそのバランスは、
どう考えても、走るのには適しません。
機能と効率、経済性とは逆の方向です。
そしてそれらは、わたしたちが長いこと、価値を認めてこなかったものです。
ここで豊かさは復活します。
そうでなければ、それは嘘です。
機能的でもない、効率も悪い、経済の発展に寄与しない、
その豊かさが、再び見出されるときです。
それを私たちは、無意識にキャッチして、
バランスで表現します。
行き場のない世界で、
絶望の果てに見つけたのは、
長いこと忘れ去られ、見捨てられた、
本当の豊かさです。
本当におしゃれな人とは、それをいち早くキャッチする人たちです。
眠っている人たちを目覚めさせるため、
先駆者は、新しい価値を提示します。
新しいバランスが定着するには、これから何年かかかるでしょう。
しかし、必ずそれは定着するのです。
これから始まる新しい時代のために、
新しいバランスを見つけてください。
自分の心に引っかかる、新しいバランスのコーディネイトを見つけたら、
早速、試してみてください。
その一歩こそが、新しい時代を作ります。