オーダーメイドで服を作るという習慣が遠い昔のものになって以降、
わたしたちは、否応なく、プレタポルテ、つまりフランス語ではprêt-à-porter、
そして英語ではready to wearという、すぐに着られるという意味の既製服を着ることになりました。
そのことにより、服を自分のサイズに合わせるのではなく、
自分のほうから服に近づいていかなければならなくなりました。
既製服を選ぶ場合、まずサイズというものを確認します。
日本だったら、7号、9号、11号というような奇数番号のサイズ、
そのほかヨーロッパの36、38、40、
またアメリカの4、6、8などというものなど、
現在、日本で売られている服のサイズはさまざまです。
日本の場合、サイズには基準があって、
たとえば標準の9号では、バストが83、ウエストが64、ヒップが91などと、
決められています。
しかしそのサイズのまま既製服は作られるのかというと、
そういうわけではなく、メーカーはこれらに肉付けをし、
この基準を下回らないように、バスト寸法にゆるみ分を入れて、
服を作ります。
そのことによって、同じ9号でもメーカーやブランドによってばらつきがあり、
必ずしも同じ寸法で作られているわけではありません。
サイズはあくまで目安でしかありませんし、
あくまで標準と考えられる体型なのであって、
誰もが標準のプロポーションではないので、
つまるところ、試着が必要になります。
昔は、見立てのプロとも言える販売員さんたちが数多くいて、
サイズの合わないものを無理に買わせようとはしませんでした。
しかし、最近の傾向は、そもそも服というものに対する知識が乏しく、
とにかく売ればいいという姿勢があからさまの販売員の方々も多く、
そういった方たちに言われるがままに服を買ってしまうと、
とんだ失敗をすることになりかねません。
そうならないためにも、試着をした際に、一体どこをチェックすべきなのか、
それぞれが覚えておいたほうがいいでしょう。
まず、誰もがチェックするのは袖丈、裾丈などの丈でしょう。
袖が長い、裾が長いなどは、
洋服の知識がなくても、誰でも判断できます。
しかし、それでもたとえばパンツ丈を決める場合は、
それにあわせる靴のヒールを考慮しなくてはなりません。
ヒールがフラットなのか、8センチなのかによって、
美しく見えるパンツ丈は変わってきます。
ですから、試着をする際には、そのパンツにあわせる靴をはいていくか、
または同じ高さのヒールの靴をはくべきで、
決して、試着室に備え付けてある、簡単なミュールですませるべきではありません。
ここまでは、洋服の知識がなくても、少し考えればわかることです。
ここからは、洋服を作る側からは当たり前でありながら、
一般の人たちにはあまり知られていないチェックすべきポイントです。
トップスのサイズは、すべてバストサイズで決められています。
ですから、体躯がいくら細い人であっても、
バストが大きいならば、サイズは大きくなっていきます。
よって、まずチェックするのはバスト回りです。
バストから、横に向かってしわが走っているのなら、
それはサイズが合っていないという証拠です。
洋服は、わざと横に入れたタックやギャザーのデザインでない限り、
横じわはすべて、サイズが合っていないという意味です。
たとえば、ブラウスのバスト近くのボタン位置から、水平にしわが走っていたら、
それは選んではいけないブラウスです。
同様に、斜めじわもサイズが合っていないという証拠です。
ニットなどでも、バスト寸法が足りないと、
脇の下からバストにかけて、斜めにしわが寄ります。
それはバスト寸法が足りないという意味です。
袖丈やパンツ丈、スカートの裾丈などは、お直しが可能ですが、
バスト寸法を大きくすることは不可能です。
ですから、これらは選ぶべきではありません。
また、ボトムのスカートやパンツでも、
腰回りに横じわが出てきたら、
それはヒップの寸法が足りないということ。
特にタイトスカートで横にしわが走り、
知らない間に上へずれ上がっているものは、
完全にヒップが足りていません。
ですから、これらもサイズが合っていないということになります。
ジャケットやコートになってくると、
袖や丈の長さだけではなく、肩の傾斜をチェックする必要が出てきます。
肩傾斜は、メーカーやブランドによってまちまちで、
傾斜がきついものだと、首元が浮きますが、
逆に傾斜が緩すぎるものだと、肩先があまり、
そのあまり分がだぶつきます。
ジャケットやコートの肩傾斜もお直しの対象にはなりませんので、
肩の傾斜があわないジャケットやコートを選んではいけません。
そしてすべての服でチェックしなければならないのは脇線です。
脇線は垂直に下へ落ちなければなりません。
ブラウスでもスカートでもジャケットでもコートでも、すべてそうです。
もし前へずれていたら、前側が足りないということですし、
後ろへずれていたら、後ろが足りないということです。
ストンとしたドレスなど、横向きをチェックして、脇がまっすぐ下におりているかどうか確認してください。
脇が曲がってしまうと、必ず前、または後ろの裾が上がってしまいます。
つまり、どちらかの寸法が足りないということです。
この前、雑誌のモデルが着ているドレスの前側の裾が5センチほど足りない状態のままのページを見つけて、大変驚きましたが、これは明らかにバスト寸法が足りていないということです。
だから、そのまま着てはいけないし、選んではいけないものです。
また、ドレス、ジャケット、コートなど、どれについても、
パターンが悪いものは、後ろへ抜けていったり、
肩が異常にこったりするということが言えます。
これをチェックするためには、着てみて、2、3回、軽くジャンプするような動作をしてください。
試着室の中では可能だと思いますので、ひざをゆるく曲げたりのばしたりするのです。
そのとき、肩線が前や後ろにずれる服はパターンが悪いです。
着ていると、着物のように後ろへ抜けるか、
着心地が悪くて、途中で脱ぎたくなるような服です。
買ったら、必ず後悔します。
これらすべてチェックしたら、最後はドレープです。
トップスでもボトムでも、流れるような下に落ちるドレープはすべてよいものです。
タックをとった後にできるドレープや、
フレアスカートのような布を多く使うことによるドレープなど、
自然に下に落ちていれば問題ありません。
横に流れるようにできているようなデザインは別ですが、
そうでないもので、不自然にドレープが流れるようでしたら、
それはどこかが合っていない証拠です。
残念ながら、最適なサイズの服ではありません。
以上がひととおりの試着の際のチェックポイントです。
試着でチェックするのは、丈だけでは決してないのです。
特に小さ過ぎるサイズは大きくすることはできないので、
選んではいけません。
ここ10年ぐらい、タイトなシルエットをストレッチ素材で見せてきました。
そのため、ダーツ、タック、ドレープなど、
服としてのテクニックは、あまり使われない傾向にありました。
ストレッチ素材を入れてしまえば、横じわがごまかせます。
しかし、これからは、ストレッチでごまかせない、
ダーツ、タック、ドレープを使った服が多く出てくるでしょう。
また、シルエットも大きくなってくるので、
どのようにドレープが出るのかも、服がきれいに見えるかどうかのポイントになります。
まずは自分の体型の特徴を知る。
それはほとんどの場合、標準ではありません。
実際には、標準の体型の人など、いません。
みな骨格、肉付き、脚や腕の長さが違うのです。
違っているのが当たり前です。
それをあたかも、ほとんどの人が同じであるかのように、
作られた基準のものを着るということが既製服ということです。
ですから、ぴったりの既製服など、ありません。
ぴったりなものなどないのですから、
どこかで妥協は必要です。
だけれども、すべて妥協することはないのです。
絶対にはずせないポイントが誰にとってもあるはずです。
それは自分の長所がよく見えるようになるポイントなのか、
それとも短所が目立たなくなるようなポイントなのか、
それは人それぞれでしょう。
けれども、決して妥協してはいけない一線は、守らなければいけません。
そうしないと、あなたは服に負けます。
服のほうが強いと言ってきます。
あなたは負けなければいけない、
合わせるべきだと、強要されます。
だけれども、それに屈することはありません。
そこで負けたら、美しくありません。
おしゃれであるということは、服との戦いに負けないということです。
負けを強要するような服は、選ばないということなのです。