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2013年10月21日月曜日

「隙」を作る

はずし、
抜け感、
100パーセント同じにしない、
完璧にしないなど、
今まで個別に取り上げてきました。
それらが作り上げるのは、いわば、コーディネイト全体の中の「隙」です。
この「隙」は何のために作るかというと、その人を魅力的に見せるためです。
おしゃれであるとは、魅力的であるということです。
魅力的であるとは、引きつけられるということです。
その引きつける力を人為的に作るために、
「隙」に関するいろいろなテクニックが用いられます。

人に「隙」がないと、まず他人は近づけません。
防御的です。
だから、戦うときはそれでいいのです。
戦うときは、「隙」など作ってはいけません。
誰にも文句を言わせない、一筋の乱れもない完璧なコーディネイトで、
他を圧倒し、威圧し、制すればよいのです。
誰にも文句のつけようがない、それこそ、誰もが知っているハイブランドが、
いかにもそれとわかるようにコーディネイトすればいいのです。
それは高飛車でしょう?
傲慢でしょう?
だから完璧でしょう?
だけど、それでは魅力はないでしょう?

魅力というのは、ハチが花に引きつけられるように、
何もしなくても、自然と向こうから寄ってくる力です。
それをわざと作るために、おしゃれ上級者たちは、
いろいろな「隙」に関するテクニックを編み出しました。

シャネルのジャケットに穴あきジーンズをあわせてみたり、
完璧なドレス姿なのに黒ぶち眼鏡をかけてみたり、
シフォンのスカートにバイカーブーツをはいたり、
まだ寒いのに、素足にパンプスをはいてみたり、
ニットの帽子だけ自分で編んだものだったり、
エルメスのバーキンにロックなステッカーを貼ってみたり、
スウェットシャツの絵柄がバンビだったり、
ダイヤモンドなのにキティちゃんだったり、
とにかくずらすのです。
完璧から逃げるのです。
完璧にしては、だめなのです!

「隙」を見たら、相手はなぜそこだけそうなんだろうと疑問を持ちます。
そこから会話が生まれます。
話がはずみます。
はずんだ会話から笑い声が生まれます。
笑い声からドラマが始まります。
そして、そのドラマは続いていくのです。
完璧コーディネイトで武装した、無愛想な女の人が仁王立ちするその隣で、
ちょっと変てこりんで、いかれたプリントのTシャツの、
かわいくて、話しかける隙のある女の人が、
笑顔で、今にもダンスしそうな勢いです。
そうやって、踊るぐらい楽しい瞬間を自分で作っていくのです。
そんな経験を作るきっかけとして、「隙」はあります。

この「隙」は、たまたまそうなったものではありません。
あくまで完璧を知っていながら、わざと崩すものです。
いつも適当にコーディネイトしているからめちゃめちゃなのよ、という崩れ方とは違います。
そこで1つ何か入れたら完璧になってしまう、その最後の1ピースをわざと入れない方法です。

その「隙」の作り方は、人それぞれです。
それが魅力なのですから、みな同じというわけではありません。
ある人にとって、それは時計だったり、ある人にとっては帽子かもしれません。
あるいは靴やバッグでいつもはずすということもあるでしょう。
その「隙」の作り方の積み重ねが、その人の魅力となっていきます。

会話が生まれないファッションなんて、退屈です。
鏡の前で仁王立ちしていても、どこへもたどり着けません。
どこに「隙」を作るか、どこで引きつけるか、考えてみましょう。
それはブランドのロゴよりも、強力な力です。
だって、誰かの相手のお財布にシャネルのロゴがあったとしても、
話しかけないでしょう?
物語は作るのです。
待っていても始まりません。
毎日が退屈ならば、自分で作りましょう。
あなたが仕掛ければ、まわりは動き始めます。
まわりが動き始めれば、現実が変わっていきます。
そうすれば、退屈な人生とはさようならです。
自分が主人公の物語は、そのときから始まります。
すべてこの世は舞台なのですから、それは可能です。