はずし、
抜け感、
100パーセント同じにしない、
完璧にしないなど、
今まで個別に取り上げてきました。
それらが作り上げるのは、いわば、コーディネイト全体の中の「隙」です。
この「隙」は何のために作るかというと、その人を魅力的に見せるためです。
おしゃれであるとは、魅力的であるということです。
魅力的であるとは、引きつけられるということです。
その引きつける力を人為的に作るために、
「隙」に関するいろいろなテクニックが用いられます。
人に「隙」がないと、まず他人は近づけません。
防御的です。
だから、戦うときはそれでいいのです。
戦うときは、「隙」など作ってはいけません。
誰にも文句を言わせない、一筋の乱れもない完璧なコーディネイトで、
他を圧倒し、威圧し、制すればよいのです。
誰にも文句のつけようがない、それこそ、誰もが知っているハイブランドが、
いかにもそれとわかるようにコーディネイトすればいいのです。
それは高飛車でしょう?
傲慢でしょう?
だから完璧でしょう?
だけど、それでは魅力はないでしょう?
魅力というのは、ハチが花に引きつけられるように、
何もしなくても、自然と向こうから寄ってくる力です。
それをわざと作るために、おしゃれ上級者たちは、
いろいろな「隙」に関するテクニックを編み出しました。
シャネルのジャケットに穴あきジーンズをあわせてみたり、
完璧なドレス姿なのに黒ぶち眼鏡をかけてみたり、
シフォンのスカートにバイカーブーツをはいたり、
まだ寒いのに、素足にパンプスをはいてみたり、
ニットの帽子だけ自分で編んだものだったり、
エルメスのバーキンにロックなステッカーを貼ってみたり、
スウェットシャツの絵柄がバンビだったり、
ダイヤモンドなのにキティちゃんだったり、
とにかくずらすのです。
完璧から逃げるのです。
完璧にしては、だめなのです!
「隙」を見たら、相手はなぜそこだけそうなんだろうと疑問を持ちます。
そこから会話が生まれます。
話がはずみます。
はずんだ会話から笑い声が生まれます。
笑い声からドラマが始まります。
そして、そのドラマは続いていくのです。
完璧コーディネイトで武装した、無愛想な女の人が仁王立ちするその隣で、
ちょっと変てこりんで、いかれたプリントのTシャツの、
かわいくて、話しかける隙のある女の人が、
笑顔で、今にもダンスしそうな勢いです。
そうやって、踊るぐらい楽しい瞬間を自分で作っていくのです。
そんな経験を作るきっかけとして、「隙」はあります。
この「隙」は、たまたまそうなったものではありません。
あくまで完璧を知っていながら、わざと崩すものです。
いつも適当にコーディネイトしているからめちゃめちゃなのよ、という崩れ方とは違います。
そこで1つ何か入れたら完璧になってしまう、その最後の1ピースをわざと入れない方法です。
その「隙」の作り方は、人それぞれです。
それが魅力なのですから、みな同じというわけではありません。
ある人にとって、それは時計だったり、ある人にとっては帽子かもしれません。
あるいは靴やバッグでいつもはずすということもあるでしょう。
その「隙」の作り方の積み重ねが、その人の魅力となっていきます。
会話が生まれないファッションなんて、退屈です。
鏡の前で仁王立ちしていても、どこへもたどり着けません。
どこに「隙」を作るか、どこで引きつけるか、考えてみましょう。
それはブランドのロゴよりも、強力な力です。
だって、誰かの相手のお財布にシャネルのロゴがあったとしても、
話しかけないでしょう?
物語は作るのです。
待っていても始まりません。
毎日が退屈ならば、自分で作りましょう。
あなたが仕掛ければ、まわりは動き始めます。
まわりが動き始めれば、現実が変わっていきます。
そうすれば、退屈な人生とはさようならです。
自分が主人公の物語は、そのときから始まります。
すべてこの世は舞台なのですから、それは可能です。