(Diorのレッドドレス)
色にも流行があります。
まず国際的な機関であるインターカラ―が発信する色を取りきめ、
プロモスティルなどの情報発信会社がトレンドブックを発売、
それらの情報を収集して、ファブリックメーカーが生地を作ります。
そのため同時期の生地の展示会に同じ色の生地が並び、
これら生地を使って各種メゾンが服という形にするため、
その年に多く使われる色というものが出現するという仕組みです。
ファッションの歴史を振り返ってみればわかるように、
60年代には60年代の、70年代には70年代の色調があります。
同じ赤といっても、60年代のような赤と、70年代の赤とではまた違っています。
ですから、「赤」と大きくひとくくりしても、今買う赤は、やはり70年代の赤とは違うのです。
赤い服はいつの時代でも作られています。
紺、白、赤というトリコロールの並びや、
トラッドの茶に合わせる赤いツインセットなど、
商品のラインアップから完全に赤が消えたシーズンというものは過去にないでしょう。
けれども、赤い服を多くの人が着ていたという印象はあまりないと思います。
なぜなら、赤い服はいつも作られてはいるけれども、売れ残るからです。
なぜ赤はいつも売れ残るのでしょうか。
多くの人が「使える色」や「人気の色」を探しています。
「使える色」とはどういう場面で何のために使うのかはっきりしませんが、
汎用性が高いというぐらいの意味でしょう。
また、人気の色とは、多くの人が選ぶ色ということでしょう。
目的は不明ではあるが汎用性が高く、多くの人が望む色こそが、
多くの人が探している色です。
赤が売れ残るということは、つまり赤は汎用性が高くなく、
何より人気がないからでしょう。
汎用性が高く、多くの人が持つということは、
いつでもどこでもそれは散見できる、つまりありふれているということです。
どんな場面でも、多くの人が着たり、持ったりするのですから、それは街にあふれます。
多くの人は、ありふれていることを望んでいます。
ありふれているものを望む人たちは、
目立つことを嫌がります。
確かに赤は目立つ色です。
男性の中のただ一人の女性を紅一点と言うように、赤はひときわ目立つのです。
汎用性が高く、人気がある色とは、
決してその人が好きな色ということではありません。
また、自分もしくは誰かがその人に似合うと思っている、その色でもありません。
ありふれていて、好きでも似合うというわけでもないその色を選ぶ人たちは、
目立たなく、多くの人と同じことを望みます。
逸脱しないように、街に溶け込むように。
しかし同時にこの人たちは、
選ばれることを熱望するのです。
多くの少女マンガに見られるあのパターン。
いつでもひょんなことが起こり、
カッコいい男子に見染められ、
自分の意思に反して物語が進行する、あの使い古されたパターンのように、
誰かから選ばれて、運命が開けていくことを切望するのです。
けれども、多くの、このありふれた色を望む人たちには、
そんなことは現実に起きなかったでしょう。
自分が好きでも似合うわけでもない、ありふれた色を選び続けた
その人たちの衣装というテキストは、その人が代替可能な人物であると、多くの人に知らせたのです。
ひょんなことなんて起こりません。
カッコいい男子も王子様もやってきません。
運命の扉が自動ドアのように勝手には開くこともありません。
さて、ではそうではない者、
自分が何が好きかわかっていて、
他人の嗜好を知るための人気ランキングなど完全無視し、
自分の意思で選択し、その責任を取る、そんな人が赤が好きなら、
迷わず赤い服を着ましょう。
赤は情熱の色、行動の色です。
ハートはいつも赤い色で表現されます。
赤はLOVEの象徴です。
自分であることを包み隠さず、凛とした姿で自分の人生を歩いていく、
そんなあなたに赤はうってつけです。
そういう人の中に人々は美を見出し、引きつけられます。
運命の女神フォルトゥーナはほほ笑み、
あなたは選ばれます。
多くの中から選ばれるその理由は、まさにあなたが代替不能だからです。
赤が好きな人は赤を着ましょう。
赤いドレスでも、赤いコートでも、赤いセーターでも、赤いブーツでも、赤いバッグでも、何でも構いません。
赤を選びましょう。
そして、その勇気を持って、自分の未来を自分で切り開いていきましょう。