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2012年2月20日月曜日

洋服のための歩き方



さて、ファッションセンスのよさや、完璧なメイクなど、外国の方々からほめられることがたくさんあるわたくしたち日本人女性ですが、とても評判が悪いのが、その歩き方です。
特にヒールの高い靴をはいたときの歩き方は、姿勢が悪い、ひざが曲がっている、前のめりであごを突き出して歩いているなど、さんざん言われています。
でもこれらの批判も本当なのだから、仕方ありません。

ウォーキングの講座もたくさん開催されているし、本もあります。
一直線上を歩きましょう、つま先から着地しましょう、ひざはこすれるぐらいくっつけて歩きましょうなど、アドバイスもたくさんあるし、頭ではそれがわかっているのですが、なかなか直りません。

私もこの問題について、何かもっと深い理由があるのではないかとずっと考えていました。
アドバイスを聞いたり、1日だけウォーキングのレッスンを受けたぐらいでは直せない何かが。ただ、この謎はずっと謎のままで、ずっと保留の問題として常に私の中にありました。
ところが先日、ユーチューブでコレクションの様子を写したビデオをみている際に、はっとひらめいたのです。

歩くという動作は、移動するために行います。前へ1歩、または後ろへ1歩、進めば、それで事足ります。そこに、どういうスタイルで、ということは問われません。
わたしたち日本人は、ずっと着ものに草履というスタイルで、この「歩く」という動作を行ってきました。
着もので歩くときに気をつけることとは何でしょう。
がに股にならないで内股で、すそが開かないように1歩の幅は狭く、そして、最後に、なるべく上下に動かないこと、です。

コレクションで高いヒールをはいて歩いていくモデルたちは、どちらかというと、スキップをするように、軽く上下に動きながら前へと移動していきます。
そして、姿勢もどちらかというと、前のめりではなく、後ろへ反り気味です。
小さくスキップをするように、上へ足をけり上げて、着地するまでの距離を長くとることによって、ヒールの靴であっても、つま先から着地することが可能になります。
上へと蹴りあがるので、歩くたびに頭はぴょこぴょこと上下に動きます。
つまり、これが洋服の歩き方なのです。

これに対して日本人は、とにかく上下に体が動くことを嫌います。
歩くときに、頭がぴょこぴょこ上下運動してはいけないのです。
だから、歩くとき、足はなるべく地面から離れず、すり足となります。
すり足ですので、どちらかというと、ずるずると移動していきます。
こうすることによって、着もの姿は美しく保たれます。
これは、着ものを着る者にとっては、正しく美しい歩き方なのです。

わたしたち日本人のほとんどは、まだこの着もののための歩き方で歩いています。
それは、ヒールのない靴のときはさほど目立ちませんが、
ヒールのある靴をはいたとたん、バランスがとれずおかしくなってしまいます。

西洋の代表的な踊りはバレエです。
トウシューズをはいて、地面に足をつける面積を少なくし、上へ高くジャンプします。
その動き方の基本は垂直方向です。
それに対して、日本の踊りはどうでしょう。
決して高く飛んだりなどしません。なるべく地面から足を放しません。
水平方向への移動が常に基本です。
日本舞踊の踊り手がトウシューズをはいてもうまく歩けないように、
私たちの着もののための歩き方では、ヒールの靴でうまく歩くことができないのです。
これはいい悪いの問題ではなく、文化の違いです。
洋服も着ものも着るわたしたち日本人は、バレエの歩き方と日本舞踊の歩き方、両方を習得しなければならないようなものです。
これがどんなに困難かは、誰でも納得できるでしょう。
何百年と培ってきた文化のDNAが流れているのですから、そんな1日のレッスンで、まったく違う文化の歩き方を習得するなんてことが、できるわけありません。

じゃあどうするかといったら、やっぱり練習しかありません。
しかも、これは全く違う歩き方なのだと、念頭に置かなければなりません。
最近はヒールの靴でのウォーキングの講座もたくさんあるので、そういうものに参加してみるのもいいでしょう。
本で読んだ説明だけではバレエを踊れないように、実際に自分で動いてみないことには、ヒールの靴での正しい歩き方は習得できません。

だけど、ここで絶対に間違わないでください。
もう洋服しか着ないのだから、着ものの文化なんか捨ててしまって、着もの歩きなんざ、やめてしまおうなんて、思わないでください。
わたしたちは西洋人ではありません。
江戸しぐさに代表されるような、和服の文化があってこその動きの美しさが、わたしたち日本人の美しさなのです。

自分以外の誰かになろうとして積み上げた努力の塔は、いずれ崩壊します。
そこで積み上げた美しさはにせものだからです。
わたしたちに必要なのは、誰か自分以外の者になろうとする必死な努力ではなく、
ほかの文化さえ自分の中に取り込む、余裕と寛容さなのです。

☆写真は映画「ピストルオペラ」の山口小夜子さま(もちろん右の人!)
洋服ときもの、両方を習得した稀有な見本。みんなで見習いましょう。
映画のほか、古いCMなんかでもそのお姿を拝見できます。