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2012年5月14日月曜日

「白いTシャツこそ毎年新しく」とよく言われるわけ

よく雑誌や何かに、「白いTシャツこそ、毎年、新しいものを」などと書かれていますが、その理由については詳しく述べられていません。
今日はそのことについて書いてみたいと思います。

 白Tシャツを毎年買い替えたほうがいい理由は、2つ考えられます。

まず1つ目は物理的な問題。
白いTシャツ、特に夏のTシャツはよく洗濯します。
洗濯することにより、生地はくたびれてきます。
また、洗剤による傷みのせいで、生地表面がざらつき、光沢やしなやかさが失われます。
古着のようなくたびれたTシャツが似合うのは、残念ながら、若い人だけです。
若い肌とくたびれた綿のコントラストは、独特の魅力を生みますが、
もう若くない肌に、光沢のなくなった綿では、くたびれ感が助長されるだけ。
これをカバーするためにも、洗濯回数の多い夏のTシャツは、新しいほうがよいのです。
また、白という色の特質上、どうしても前年の黄ばみが残ります。
ブリーチすればよいのですが、やはりこれも生地が傷みます。
どちらにしろ、くたびれた、傷んだ生地のTシャツは、余りお勧めできません。
(しかし逆に言うと、着用回数の少なかった、色もののTシャツなどはこの限りではありません。)

そして2つ目。
ほとんどの場合、こちらのほうが言われているのだと思います。
それは、「新しさ」の問題です。

Tシャツというごく普通のアイテムを、ハイブランドと言われるブランドでも作られ、売っています。
しかも、高価な値段で。
白いTシャツなんて、どこのスーパーでも売られているのに、なぜハイブランドが、法外な値段の設定をつけてまで作るのでしょう。
それには理由があります。
それは、前身ごろ、後ろ身ごろ、左右の袖だけのパーツでできた、単純なTシャツこそ、
その年の最も新しいトレンドを表現するのにふさわしいアイテムだからです。

私が文化服装学院の学生のとき、どうしてもコム・デ・ギャルソンが着てみたくて、
セールでTシャツを買ったことがあります。
その当時はお金がなかったので、セールと言えども、Tシャツぐらいしか買えませんでした。
見たところ、何の変哲もないTシャツです。
洋服を勉強している私が見ても、何がほかと違うのか、さっぱりわかりません。
しかし、そのTシャツを着て、鏡の前に立ってみたところ、
何とも言えない感動が、心に込み上げてきたのです。
ごく普通に売られているTシャツとの違いは、
それこそ、襟ぐり、袖の長さ、身幅、丈が数ミリしかないでしょう。
しかし、その数ミリの違いのバランスが、今、一番この形が新しい感じなのだということを表現していたのです。
前のものは死んだ、これこそが新しく生まれたもの、
そんな体験を、Tシャツ1枚着ることによって、することができたのです。
ファッションを愛している者たちが追いかけるのは、この「新しさ」の体験です。

ハイブランドで売られる今年一番新しいTシャツには、この要素が入っています。
これは「新しさ」の表現です。
ですから、毎年新しい白いTシャツを買い替えることは、自分がその新しさに入っていくことになり、
一部の人たちにとっては、それこそがおしゃれだと思えるのです。

この2点が、白いTシャツは毎年新しいものをと言われるゆえんです。

物理的な点は、私も賛成です。
やはり年齢とともに、あまりくたびれたTシャツは着ないほうがいいでしょう。
けれども、2番目の新しさについては、半分はそうだけれども、半分はどうでもいいこと、
だとも思います。
なぜかというと、その「新しさ」は、ファッション業界とは無関係な、ごく普通の一般の人たちにとって、
ほとんど意味がないし、その違いがわからないからです。
実際、買って着てみればわかるのですが、その「新しい」感じがわかるのは、全体の1割ほどの人です。
ほとんどの人にとって、その5ミリのネックのあきの違いなど、わかりません。
この5ミリの差をうんぬん言うのは、一種のマニアなのです。
マニア以外、わからないし、意味はありません。

それでも、「新しさ」の体験をしてみたい方は、どうぞ一流ブランドの今年の白いTシャツを買ってみてください。
それこそが、まさに新しいデザインです。
ただし、他人にそれを理解してもらおうとは期待しないこと。
それからもう一つ注意点。
いくら今年の新しいものでも、どこかのブランドのものをサンプルとして買ってきて、
それをそのまま作るような、泥棒デザイナーの作ったTシャツを買っても、まったく意味がありません。
そんなことをしている段階で、もう既に1年遅れています。
買うのなら、ちゃんとオリジナルのデザインを発信しているブランドのものを選んでください。
そうしたら、その年の一番新しい気分を体験することができるでしょう。
そして、もしそういうものを買ったら、
いくら高くても、どんどん着てしまうこと。
今年着ることに意味があるのですから、高いからといって、たまのお出かけだけに着るなんてことはしないでください。
もう来年はみっともなくて着られないわ、というぐらい着てしまいましょう。

「新しい」ということは楽しいです。
確かに1つのエネルギーです。
エネルギーを動かすと、テンションが上がります。
だけれども、「新しい」ものだけで作ったものは疲れます。
基底にずっと流れている音は、もっと静かでゆっくりです。
そして、たぶん、その静かでゆっくりがあるからこそ、「新しい」を楽しめるのです。
新しさのために、静かでゆっくりを壊さないでください。
いつだって、一番大事なのは、静かでゆっくりのほうです。