ごくたまになのですが、知らない方から、自分にはどんなコートがいいのかとか、
どういうふうにコーディネイトしたらいいのかなどの質問をいただきます。
そのたびにお答えするのが、「見てもいないものに対してアドバイスはできません」ということです。
その方自身も、持っているワードローブも、好みも、何も知らないのに、
何がいいですよとは、言えません。
服については、到底、言葉だけで表現することはできません。
正確な色や、その立体的な様子をこと細かに表現したところで、
実物にはたどりつきません。
いわんや、人の姿、印象、見えない雰囲気など、言葉だけで表現するのは無理です。
そして、そのわからなさを前提としたアドバイスは、やったとしても、ほとんど役立たないものになるであろうことは、目に見えてわかっています。
というわけで、見てもいないものに対してアドバイスはできないのです。
では、もしその人のことを知っていて、見たこともあり、雰囲気も感じて、
好みも把握し、ワードローブも見ていたとしたら、
どんなふうにアドバイスをするかというのが、今日のテーマです。
お題としては「コート」を選びました。
まずは、その人のテーマ・カラーを確認します。コートなので、差し色ではなくて、メインのカラーとなります。
次に、今後、どういった方向にいきたいのかを確認します。
今はそうではないけれども、近い将来になりたい方向です。
今と変わらない、同じテイストであるのなら、それはそれで聞いておきます。
次に、その方の今持っているワードローブを確認します。
舞台やテレビの衣装ではないので、一から全部、そろえるわけではありません。
もうすでに持っていて、これからまだ着るワードローブにコートを追加していきます。
ですから、今持っているアイテムや色と、全く合わないものは選べません。
それを確認します。
もちろん、その方の容姿や、全体的な雰囲気などは、目で見て、感じることによりチェックします。
コミュニケーションの仕方なども、重要です。
また、大体の予算も聞いておきます。
ここまではその人に対するリサーチです。
その人物の概要を把握します。
ここからは私が持っている知識を使います。
まず、これからの流行の傾向を考えます。
いくら似合うからといって、これから絶対に時代遅れになるようなコートを勧めるわけにはいきません。
流行の方向性を見極めて、その上でこれから何年も着られるようなコートを考えます。
そして、次に、その人がすでに持っているワードローブに付け足すにふさわしい色やシルエットについて考察します。
このときに、その人の体型や雰囲気に合うようなものは何になるかを考えます。
最後に現在考えている予算で、そういったコートがどんなところで手に入るのか、
たとえば、それはどんなブランドで売られているのか、検討します。
もちろん100パーセント理想どおりのコートがあればよいわけですが、
予算と、手に入れられる可能性を考慮すると、
その選択肢は狭まります。
つまり、どこが妥協点になるのか考えるわけです。
ここまで考えて初めて、どんなコートがいいのか、アドバイスできることになります。
これはコート以外でも同じことです。同じ方法を使います。
つまり、1枚のアイテムを買い足すときには、上記のような事前の考察が必要だということです。
ここまで考えないと、自分にとってのふさわしいコートを買うことはできません。
もちろん、私は一目ぼれの可能性を否定はしません。
しかし、冬のコートというものは、一目ぼれで買うようなお値段ではありません。
ここまでのイメージと考察ができた上での一目ぼれなら構いませんが、
行き当たりばったりの一目ぼれでは、長く着られるコートには出会えません。
一目ぼれで買えるのは、せいぜい1年限りの短いお付き合いのTシャツやタンクトップぐらいです。
タンスのこやしや、ほとんど着ないような服をふやさないためには、とっかえひっかえの一目ぼれで出会った相手は、不向きなのです。
そうやって考えると、自分が本当に必要な服、そしてふさわしい服は、
ほとんど売っていないということに気づくでしょう。
売ってないのですから、根気良く探すしかありません。
コート1枚を買うのも、理想の結婚相手を探すのも、
根本的には同じ作業です。
長く付き合うためには、それが必要なのです。
そこで簡単に妥協するなら、それがその人の人生に対する態度となります。
洋服を1枚買うという行為の積み重ねが、
その後の人生の方向を大きく変えていきます。
買うという行為は、常に選択だからです。
たくさん買ってもまだ満足できないのも、
着ていない服がワードローブの大半を占めるのも、
その選択の結果です。
心からの満足を求めるのなら、そうなるための選択をする必要があります。
選択を放棄したら、それは妥協の人生です。
与えられたものだけで満足できるのなら、それでも構いませんが、
そうではなくて、自由で、自分らしく生きたいのなら、
しっかり選択していきましょう。
コート1枚のアドバイスを簡単にできないのはそのためです。
よく知りもしない私が、その人の選択する権利を奪うわけにはいきませんから。