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2015年11月1日日曜日

素材感を変えていく

ファッションに関連する仕事に携わっていない一般の人々は、
素材について勉強をしたことがない場合がほとんどです。
勉強したわけではないのですから、
知識はほとんどありません。
ウール、コットン、リネンなど、
名前は知っているでしょう。
しかし織りの種類によって変化する表面の感じ、
ドレープの出方、透け方、伸びる特質など、
それらについて詳しく知っている人は、多くはいないでしょう。

雑誌の写真を見たところで、
解説の文章を読んだところで、
その生地について知り得たとは言えません。
生地について知るためには、必ず経験が伴います。
実物をさわってみなければ、
それを知っているとは言えません。
同じライフスタイル、
同じ地域、
似たような仕事の中で、
生地への知識はふえてはいきません。

色についてもきっちり計画し、
シルエットも決して古びていないのに、
何となく凡庸な仕上がりのスタイルになるとき、
何が面白くないのかと言えば、
その素材感の変化のなさです。

ジーンズにボーダー柄のカットソー、
コットンギャバのトレンチコートにコンバースの平凡さ、子供っぽさは、
そのすべてが木綿から作られていることにゆえんします。

街は、安価な木綿とポリエステルの素材であふれています。
安さだけを求めていると、
手に入るのは木綿のカットソーばかりです。
安さの名のもとに、
いつの間にか素材のバラエティは失われ、
似たような素材、生地のアイテムがワードローブに並ぶようになります。
それらはどんなに素敵に組み合わせたところで、
私たちが見るような、コレクションで発表されたスタイルにはならないのです。
なぜなら、素材があまりに違うから。

木綿素材は洗濯が簡易なため、
子供服に多様され、おのずと子供服は木綿ばかりとなります。
それは構わないのです。
子供はいつでも服を汚しますから、子供服は洗濯に耐えるものでなければいけません。

活動的な若者にも、木綿だけのスタイルは似合います。
洗いざらしのTシャツによれよれのジーンズは、
若者の代表的なスタイルです。

しかし、よりおしゃれに見せるのなら、
そしてその凡庸さから抜け出したいのなら、
1つのスタイルを作るとき、素材感を変える必要が出てきます。

素材感を変えるとは、
例えばすべて木綿のアイテムだけでコーディネイトするのではなく、
木綿、ウール、シルク、皮革などというように、
素材を変えること、
もしくは、サテン、オーガンジー、ツイード、エナメルというように、
織りを変えて、生地の表面やテクスチャーが違ったものを組み合わせる、
ということです。

素材感を変えることによって、
同じ色でも陰影が出てきます。
例えば同じ黒でも、サテン、オーガンジー、レースというように
素材を変えることによって、生地に凹凸が生じ、陰影が生まれ、
それはあたかもリズムのようであり、
物語の起承転結のようであり、
一筋縄ではいかない、
複雑で、多くの意味を、そのスタイルにもたらします。
そして、その複雑さ、一度では理解できない難解さがファッションです。

確かに、木綿だけのコーディネイトはわかりやすいです。
疑問も質問も生まれません。
しかし、疑問も質問も生まれないということは、
そこには物語がない、ということ。
1度見たら終わりの、
1度聞いたら終わりの、
1度会ったら終わりの、
そのつまらなさは、
記憶には残らず、忘れ去られます。

1ページ足らずのレジュメでは、物語とは言えず、
一読すれば終わりの、そのコーディネイトを、
おしゃれとは呼ばないのです。
それはライトノベルです。
何度も読まれる名作ではありません。

凡庸を抜け、
相手に疑問を抱かせ、
質問を誘発し、
幾通りもの解釈を可能にするためにも、
1つのスタイルを完成させるときは、
素材感を変えていくことをお勧めします。

厚ぼったいだけではなく、
マットな光だけではなく、
光を入れて、
薄さを足して、
レースやツイードで凹凸をつけ、
表面を立体的にし、光を乱反射させる。

スタイルとして考えたときは、
その光はもちろんジュエリーでも構わないし、
エナメルのショートブーツでも、
帽子のサテンのリボンでも構いません。

素材がよくわからないのなら、
生地屋へ行ってみるのもいいでしょう。
一枚一枚さわってみるその経験が、
やがて素材の知識へと変わります。

できるならば、なるべく多くの素材のものを試着して、
その軽さ、重さ、照明の見え具合、さわり心地を確認することをお勧めします。

(けれども、すべての人がそれをするには難しい状況だ、ということもわかります)

安さと手軽さ、わかりやすさの罠にはまったままでは、
おしゃれには見えません。
それは努力を要するのです。
簡単だなんて、一度たりとも言ってはいません。
いつでも、
それをするかしないかです。
しないのなら、しないなり、ということです。



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