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2012年4月9日月曜日

マスターピースを探す

これまでの記事で、
10年着られる服を探そう、
また、流行のシルエットを取り入れようと提案してきました。
けれども、これは全く矛盾する話です。
そうです。ファッションの世界は、矛盾ばかりです。
流行のシルエットは取り入れたほうがいい、だけれども、10年着られる服も探してほしい、
これほど難しいことはありません。

これまで、10年着られる服とはどんな服なのか、具体的に説明していませんので、
今日はそれについて書きたいと思います。

10年着られる服には、2種類あります。
まずは、一般的な服のマスターピースです。
これらは、ロンドンのヴィクトリア&アルバートミュージアムなどで展示されている、
それこそ、作品と呼んでいい服のことです。
ディオール、サンローラン、バレンシアガ、ヴィオネなど、
何年たっても古びない、まさに傑作。
これらのものは10年以上の年月に耐えられるものです。
しかし、これを見つけるには、相当な目利きでないといけません。
目利きになるためには、それなりの経験、知識、感性が必要です。
また、やはり名の知れたデザイナーの作品のほうが、こういったマスターピースになる可能性は高いです。ですので、高価なものが多いというのも事実です。
こちらのほうは、なかなか一般の人が探して身につけるのは大変だと思います。

一方、もう一つのマスターピースとは、自分にとってのみの傑作です。
まさに自分のために作られた服、こんな感じを受ける服のことです。
これらは時には流行遅れになるかもしれません。
けれども、自分にぴったりのその傑作は、何年たってもずっとお気に入りであり、
穴が開いたら、繕ってでも、着たいと思うでしょう。

こちらの、自分にとってのマスターピースを見つけるために最も重要なことは、自分のことをよく知ることです。
自分はどんなものが心地よいか、どんな体型か、どこへ行くか、何を目指しているか、
好きな素材や色は何か、何をしている時間が自分にとって最も大事か、
そんなことをよく知っていないと、なかなか自分にとってのマスターピースを見つけることはできません。

ここで一番注意してほしいのは、それは自分の欲するものか、他人の欲するものか、という点です。
他人の欲するもの、つまり、他人の視線によって選ばれた服は、10年以上着ることなど、不可能です。
他人がこれを着なさいと言って選んだものは、他人があなたに与えた仮面であり、
その仮面を演じ続けることは、できないからです。
そういう服は結局のところ、2、3年で要らなくなります。
なんとなくもう着たくない、まだいたんではいないのだけれど、まったく着る気がしない、
そんな服は、もしかしたら自分の欲求でなく、他人の欲求を優先して選んでしまったものかもしれません。
他人というのは、あなた以外のものすべてです。
雑誌の情報、会社の命令、親の好み、社会の要請など、さまざまなものが、あなたに何かを着るよう押しつけます。
自分も、そのときは何だかいいような気がしたりしますが、時間がたてばたつほど、これは自分のものではないという違和感を感じるようになるのです。
そんな服ばかりに囲まれていたら幸福感など得られないでしょうし、
10年も着続けるなんて、ありえない話です。

少し時間をとって、自分は本当はどんな服を着たいのか、どうしたいのか、考えてみましょう。
それは他人に聞いてもわかりません。
自分の欲求は、他人の欲求ではないか、
本当に自分にとって大事なものは何なのか、見つめてみましょう。
そうやって見つけた洋服は、あなただけのマスターピースになり、
10年、いえ、もっとそれ以上、長持ちするかもしれません。

そういう服を見つけて、それを身につけて自分が心地よいのなら、
それがおしゃれに見えるかどうかは、どうでもいいことです。
自分が自分を生きているという実感のほうが、はるかにあなたを幸せにします。