スリットとは切れ目のことで、
洋服の場合は、特にタイトスカートの後ろ中心に、
歩きやすくするためのスリットが有名です。
しかし、このスリットですが、開きに用いられるスリットのように、
動きやすさ、着やすさなどの機能のために用いられるほか、
デザインとしてわざと入れる場合もあります。
そして、最近、デザインとしてのスリットがふえています。
たとえば、
タイトスカートのスリットを脇から前よりに持ってきて太ももあたりまで深く入れる、
ドレスの後ろ中心をファスナーでしめずに、スリットにして開けたままにする、
肩線を少し開けて肩を見せるようにするなど。
そして最近、特に多いのは、
ボディの前身頃の中心線が大きく開いたタイプです。
シャツやニットの前中心の深い切り込み、
それから、これはもはやスリットと呼びませんが、
ドレスやジャケットの前中心をV字になるように、
開けたままにするスタイルです。
ポイントはどれも、深く開いたその隙間からは素肌が見えているということ。
ドレスやジャケットの胸元は深くV字に開けたままで、
下には何も身につけず、素肌を見せます。
このように、あらゆるところに深く切れ目を入れて素肌を見せるスタイルが、
ここのところ多く出てきました。
これは、シルエットではなく、細部のデザインの流行で、
これからもっと拡大していくでしょう。
ファッションに求められるのは、
見慣れぬこと、
意外性、
そして驚きです。
この、至るところに切り込みを入れて、
いろいろなところから少しだけ素肌を見せるスタイルは、
そのファッションの求めるところを見事に実現しています。
その隙間から見える素肌は、
ふだんは見せていないような部分であり、
また、意外性に満ち、見るものの視線を、
知らぬ間に引きつける効果を持っています。
ファッションにおいて、
あからさまに肌を見せるということ、
ひいては、あけすけで、意図を持った性的表現は、
かえって逆効果です。
それは下品と呼ばれます。
下着が見えそうなスカート丈や、
ごくふつうのブラジャーが胸元から見えていることは、
おしゃれの反対側にあるものです。
なぜなら、そこには驚きも、意外性もなく、
性的に引き付けたいという、見え透いた意図がはっきりわかるからです。
それはモードなどではなく、
悪趣味で、夢見の悪そうな、偽装です。
他人から何かを奪ってやろうとする人は、おしゃれな人ではありません。
洋服の縫い目の、本来ならつながっているべきところがつながることなく、
切れているというそのことだけでも意外性があるのですが、
そこから見えるのが、本来は見えないはずである素肌であるということが重要です。
超ミニの丈のスカートから見える太ももではなく、
本当は見えないはずの、長い丈のスカートから、
太ももが少しだけ見えるから、そこに価値が生まれるのです。
それは最初からわかりきったミニ丈から見える太ももよりも、
はるかに想像力を刺激します。
ファッションは、想像力を働かせる余地を与えないような、
明らかな意図が、大嫌いです。
プレゼントが薄紙に包まれ、
箱に入り、
美しい包装紙に包まれ、
リボンがかけられるほど、
もらう側の想像力を刺激するように、
その中身、
つまりファッションにとっての意図が、すぐわかってしまってはだめなのです。
その意味においても、
この、至るところにあらわれる、意外性に満ちたスリットは、
冬の装いにおいて、より一層、その力を発揮するでしょう。
寒いので、すべての開きが閉まっているのは当たり前。
しかしそこで、ほんの少しでもどこか意外なところにスリットがあって、
そこから素肌が見えたなら、
そこにおしゃれが生まれます。
寒くても、それをあえて選ぶのがおしゃれな人。
それは機能ではないのです。
それは見る人に驚きを与えるための小さな仕掛け。
そのためには少しの寒さを我慢しなくてはなりません。
寒さや不便さを我慢しても、あえてそれを着る。
それもプレゼントの一種です。
おしゃれな人は、決して奪う人ではありません。
おしゃれな人とは、つまるところ、誰かに何かを惜しげもなく与えられる人だということです。
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