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2012年11月19日月曜日

コピー商品がコピーしきれないもの

ファッションの世界では、デザインをコピーしたものが多く出回っています。
服、バッグ、靴、すべてにおいてそうです。
実際、それはあまりにもあからさまな方法で行われます。

実は、私が以前、勤めていたアパレル企業(しかも一部上場企業)も、多くのコピー商品を作っていました。
やり方はこんなふうです。
まず、市場調査と称して、デザイナーやマーチャンダイザーと呼ばれる人たちが、有名デザイナーの服を買ってきます。
私がいたころは、わざわざパリまで行って買ってきていました。
そして、それを会社に持って帰ります。
そして、こう指示するわけです。
生地から、デザインから、何から何まで同じものを作れ、と。
彼らはそれをマーケッティングと呼びます。

これをほかの分野でやったら盗作です。
または、法律違反です。
どちらにしても、誇れるような行為ではありません。
恥ずべき行為です。
それを分別がありそうな、いい年の大人が堂々とやるわけです。
マーケッティングという名のもとにおいて。

では、なぜこんなことをするのでしょうか。
まず、無知だからです。
デザイン能力がないからです。
他人の権利に無頓着だからです。
恥という概念が欠如しているからです。

けれども、一番大きいのはこれです。
自分たちで苦労して一から何か作る努力をせずに、
楽して儲けたいからです。

彼らは、全く同じものを作れと下の者に指示を出します。
しかし、実のところ、全く同じものというわけにはいきません。
まずサイズの問題。
外国のパターンは、日本と違って、サイズに対する許容範囲が大きいらしく、
たとえば、日本の9号サイズを作ろうとしたら、
ウエストが細すぎたり、アームホールが小さすぎたりします。
そのままでは、日本の工業用ボディの9号に、どこもしわもなく、
ぴったり服にはならないのです。
ですから修正が入ります。
ウエストを大きくし、ダーツの位置を変えます。
アームホールも大きくするので、袖の太さも変わってしまいます。

つぎにコストの問題です。
たとえば、シルクのブラウスを買ってきて、そのまま作れと言ったとします。
けれども、実際、シルクはコストがかかりすぎるので、ポリエステルに変更します。
プリントの柄まで同じものにしろと指示があった場合、
生地屋さんにそのように発注するのですが、
シルクとポリエステルでは発色も違いますし、見た目も同じではありません。
上がってきた生地は、似てはいますが、同じものにはなりません。

その後、サンプルを作ります。
すると彼らは、それがたくさん売れるために、次々、修正を加えていきます。
ポケットがなかったら不便だと、ポケットを追加する、
ダーツが2本だと工賃が高くなるので、ダーツを1本に変える。

そうやって、最終的な商品ができ上がるわけですが、
その時点では、もうオリジナルのよかった点は消えています。
そのウエストのバランスが、
その2本のダーツが、
その生地の質感がよかったのに、
それが何一つ残っていません。
楽して儲けるために同じものを作ったつもりでも、結果的にできたものは、
つまらない、安っぽい服です。

なぜ、つまらなくなったのか。
それは、そこにデザイナーが服に込めた魂がなくなったからです。
魂を抜いた服に、新たに楽して儲けたいという気持ちを込めて作られた服が、
よい服なわけがありません。
そんな服を着ても、心が動くわけがありません。

もともと、コピー商品が多くなるようになったきっかけは、シャネルの発言だと言われています。
彼女が、私の服をコピーしてもかまわない、というようなことを言ったらしく、
それ以来、洋服のデザインをコピーして、誰かが訴えるなどということはありません。
それは黙認状態で、当たり前だと思われています。
シャネルの真意はわかりませんが、
たぶん、彼女は知っていたのでしょう。
いくらコピーしようとしても、自分の魂が入った服を他人が作れるわけがないということを。

もちろん、本当の意味で、服にオリジナルなどないです。
袖があって、身ごろがあって、ダーツをとってなど、
原型はもう既にあります。
しかし、デザイナーたちは、その原型の上に、
そのときの時代の気分を入れ込みます。
ウエストの1センチ、肩幅の5ミリ、ダーツの3ミリを細かく決定していきます。
そして、ぴったりバランスがとれるポイントを見つけるわけです。
それがデザインです。
今、自分がわくわくするような、魂がおどるようなポイントの発見、
それがデザインとなるのです。

当然のことながら、魂の入っていない服を着ても、素敵には見えません。
どんなに小さい規模でも、自分の心をこめて作っている服のほうが、
よっぽど人を素敵に見せます。
それは魂を抜かれて大量に作られた服には、できないことです。

服を選ぶときには、そのことに注意してください。
作られた意図を見抜くのです。
すべての作られたものには、意図があります。
それはあなたを利用して儲けようとするために作られたものなのか、
それとも、あなたを素敵に見せるために作られたものなのか、
見分ける目を、
かぎわける鼻を磨いてください。
それは訓練によってのみ、可能となります。

魂を抜かれた服には、独特の雰囲気があります。
デザインのポイントがはっきりしない、
シルエットにめりはりがない、
安っぽい、
何かが足りない感じがする、
生き生きとした感じがない。
それは、よく道端で売っている、名画をコピーした絵画と同じです。
見た目は似ているけれども、それを見ても感動はしません。
服に対しても、同じように見るのです。
この服は本当に感動するか、しないのか。

もし、買ってはみたけれども、着ても心が踊らない服ならば、
それは魂を抜かれた服かもしれません。
魂を抜かれた服は、こんど、あなたからエネルギーを吸い取ります。
そして、あなたは疲れていきます。
そんな服は選ばないように、
くれぐれも気を付けてください。
あなたにエネルギーを与える服だけが、あなたを輝かせるということは自明の理です。