秋冬のシーズンがスタートしました。
夏物は、もうしまうか、もしくはクローゼットのメインステージからは退場したと思います。
そんなとき、クローゼットの前に立って、
「どうしてこんなに服ばっかり、買っちゃうんだろう、私。」と、つぶやいてみたことはありませんか。
これには理由があります。
洋服は、感覚の欲望を刺激します。
一番は視覚、次に触覚、まれに嗅覚という方もいるでしょう。(このウールのにおい最高、みたいな)。
感覚の欲望には制限がありません。なぜなら、それはいつも過去に依拠するからです。
わかりやすい例として、ケーキを挙げましょう。これは味覚の欲望です。
最初はコンビニの新発売のケーキをおいしいと感じます。それはうそではありません。そのときは本当です。しかし、次に町のちょっと気取った洋菓子店へ行って、同じ種類のケーキを見つけて食べてみます。そうすると、こちらのほうがおいしいのです。コンビニで再び同じケーキを買うと、もうおいしくありません。今度は、青山や銀座の有名なパティシエのいる洋菓子店で、やはり同じ種類のケーキを買って食べてみると、こっちのほうが前に食べた、町の小さな洋菓子店のケーキよりさらにおいしいく感じます。もはや、町の洋菓子店のケーキなど、何の感動もなく、コンビニのケーキなどは、なぜこれをおいしいと思ったのか、理解することさえできません。
このように、感覚は過去をいつも記憶してしまいます。新しいものに出会うたび、リフレッシュすることはないのです。過去を記憶しているので、もっとおいしく、もっとさわり心地がよく、もっと刺激的に、もっと気持ちがよくと、だんだんにエスカレートしていき、終わるところはありません。
このような感覚的な快楽にはまると、人間は堕落します。
これは私のオリジナルの考えではありません。仏教も、インド哲学も、同じことを言っています。とどまるところを知らぬ欲望は、身を滅ぼします。
洋服もそれと同じ性質を持っています。
洋服の場合は、特に視覚が新しさを欲しがります。前と違うもの、もっと違うもの、もっと新しいものと、とどまることを知りません。
触覚の快楽を追及すると、もっとさわり心地がいいもの、もっと官能的な心地のものを求めていくでしょう。
どちらも上限はありません。
たとえば、食べ物の場合でしたら、そんなに際限なく食べていたら、そのうち病気になるでしょう。そこで人は、はっと気がついて、食事を制限します。その結果、健康がもたらされます。
洋服の場合、やっかいなのは、どんどんふやしていっても、健康を害することにはならないのです。そればかりでなく、最近のファーストファッションの流行により、洋服が安価で手に入るようになりました。ですから、安いものをたくさん買ったとしても、それで破産するということもありません。また、消費社会はたくさん買うこと、どんどん買い換えること、たくさん持っていることをよしとします。つまり、欲望の快楽を追及することは非難されるどころか、推奨されているのです。
しかし、どんどん服をふやしていったところで、心が満たされることがないことは、皆さんもうすうすお気づきでしょう。これはどうしてなのでしょうか。
実は、新しいものが欲しいという感覚の欲望によって、思いつきで衝動買いしたもの、特にそうやって買ってしまった安い服には、パワーがないのです。
そのときはいいと思った、目新しかった、しかも安く簡単に手に入った、一瞬は満足だった、すごい快楽を覚えた、けれども、その満足感も輝きも、そしてときめきも持続はしません。
感覚の欲望の、もう一つの特徴は、すぐに飽きるということです。
思いつきで簡単に安く手に入ったものは、それと同じ速さで飽きます。
そして、気がつくと、それはあなたのパワーを奪います。
見るたびに目ざわりです。処分の仕方に困ります。でも、何だかもう嫌になってしまって、着る気は起りません。それがそこにあるだけで、あるいはそれを見るたびに、あなたは憂鬱になり、後悔し始めます。どうして、私、こんなものを買ってしまったんだろう、と。
そんなパワーを奪う服は、あなたを助けてはくれません。
あなたを輝かせてもくれません。素敵に見せてもくれません。
そんな服ばかりふやしてしまったら、変な話ですが、明らかにあなたの運気は下がります。
人生の流れは止まります。
服があなたの足を引っ張るのですから、当たり前です。
クローゼットの前で、「どうしてこんなに服ばっかり買っちゃうんだろう、私」とつぶやいてみたならば、もう一度、自分にとって何が必要か、自分はどうなりたいか、そして服とはどういう関係でいたいか考えてみましょう。
簡単に選んだものでない、少しずつ近づいて、やっと手に入れた服こそが、あなたに必要なのです。
そうやって手に入れた服は、あなたを称賛し、助けてくれるでしょう。
最近、何だかついていないなと思ったら、自分が感覚の快楽にはまっていないかどうか、点検してみてください。
もし、危ないなと思ったら、早いところ、そんな服とはお別れしましょう。
遅かれ早かれ別れることになる服です。
そしてもう一度、あなたのことを助けてくれる服を着ましょう。
それは、まるで永遠のパートナーのように、あなたにパワーを与え続けるでしょう。